生活保護の「扶養照会」が破壊する家族の絆、娘と孫を搾取する虐待父も
● 生活保護の申請を 「ためらわせる」扶養照会 1月27日、参院予算委員会でコロナ禍による生活への影響への対応について問われた菅義偉首相が、「最終的には生活保護」と答えたことから、生活保護への関心が高まり続けている。現在、厚労省は「生活保護は権利」「ためらわずに申請を」と広報しているのだが、実態は「権利だから、必要ならためらわずに申請して利用できる」という制度ではない。 【この記事の画像を見る】 生活保護への「ためらい」をもたらしている最大の要因は、「扶養照会」が行われて“家族バレ”する可能性である。「最終的には生活保護」という菅首相の発言の是非はともかく、生活保護を必要なら使える制度にするためには、「扶養照会」を撤廃する必要があるはずだ。 タイミングを逃さずに、経験者の声を集めて広く伝えた支援団体などの動きに呼応する形で、2月4日、田村憲久厚労相は扶養照会の適用を緩和する方針を示した。また8日の衆院予算委員会で、菅首相は扶養照会を「より弾力的に運用」できるように検討していると述べた。ただし2月10日時点では、「より弾力的に運用」の内容は明らかになっていない。また菅首相は、扶養照会そのものの撤廃については否定している。 同じ2月8日、一般社団法人つくろい東京ファンドと生活保護問題対策全国会議は合同で、厚生労働省社会・援護局保護課に対し、扶養照会の見直しに関する要望を行った。 そもそもの問題は、扶養照会の位置づけの不明確さにある。扶養照会が必要であることは、生活保護法に規定されている。しかし、生活保護の申請を受けた福祉事務所は、申請者の親族の誰にどのような扶養照会を行うべきなのだろうか。あるいは、どのような場合に扶養照会を行わないようにしなくてはならないのだろうか。法律家や行政のエキスパートが通知類を総合しても、「イミフ」なのだ。
● DVや虐待から生き延びた人々を かえって追い詰めてしまうことも たとえば、「高額所得者である配偶者の暴力から逃げてきた」「多大な資産を持つ親の虐待から逃げてきた」という人が生活保護を申請している場合、その配偶者や親に対して「民法上の扶養義務者だから」という理由で扶養照会を行うと、本人の生命や心身が脅かされることになる。 もちろん、厚労省の通知には、このような場面でも「扶養照会を行うべき」とは書かれていない。しかし、「扶養照会はダメです」とも書かれていない。そこにあるのは、扶養照会をすべきではないと考えて「差しつかえない」、あるいは、扶養は期待できないと考えて「差しつかえない」という文言だ。少なくとも、福祉事務所が扶養照会を行うことは禁止されていない。 実際に扶養照会が行われてしまうと、何が起こるか。つくろい東京ファンドには、数多くの体験談が寄せられている。 難病を患う30代のシングルマザー・Aさんは、妊娠中に失職した。現在は治療を受けつつ、生まれた子どもと共に生活保護で生き延びている。夫とは、出産以前に別れている。兄弟姉妹もいない。Aさんの父親は、母親とAさんに暴力をふるい続けていた。Aさんは、中学生のときに母親と共に逃げ出し、母子で暮らしていた。その母は、すでに他界している。 生活保護の申請を受け付けた福祉事務所職員は、20年間音信不通となっているAさんの父親に対して、扶養照会を行った。Aさんは過去の事情を話したのだが、「規則だから」「扶養照会をしなければ申請は受け付けられない」と言われてしまい、仕方なく扶養照会に同意したという。父親は扶養照会によって、母とともに逃げたAさんの住所を知ることとなった。すると、何が起こったか。