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『エール』奇跡の夫婦 裕一・音を産んだ“先進的”子育て法

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大正生まれで昭和初期に結婚した夫婦としては、驚くほどフラットな関係の裕一と音。それぞれの才能を開花させつつ、円満な家庭を営むことができた2人の秘密を、古山家、関内家両方の子育て法から紐解く。 窪田正孝 バレンタインデーの夜 楽屋口に女性ファン殺到! ◆環境を整えた後は手出し、口出しは最小限の見守り型・古山家 「子どもたちには、自分の好きな道を歩んで欲しい」 兄2人が亡くなったため、やむなく老舗呉服屋「喜多一」を継いだ裕一(石田星空/窪田正孝)の父・三郎(唐沢寿明)の子育て方針は、まさにこの言葉に尽きる。 なかなか子宝に恵まれなかった三郎・まさ(菊池桃子)夫婦が、やっと授かった子ども。しかも男の子とあれば、当然「跡取り」となる。三郎自身も、裕一誕生のお祝いにと大枚はたいて、当時まだ珍しかったレジスターを買ってきたのだから、心のどこかで期待もあっただろう。 ところが、10歳になった裕一は、運動も武道もいまいちパッとせず、親の目から見てもどこか心許なさを感じさせる子だった。案の定、学校では虐められている様子。2話で、泥だらけになって帰宅した裕一の様子から虐めを察した三郎は、「なんでもいいから夢中になるものを探せ。それがあれば、生きていけっから」と裕一を励ましたが、しゃべらなくてもいいから「山と川」が好きだという裕一の答えに、面食らってしまう。 緊張すると言葉がつっかえてしまい、自分の思っていることをうまく表現できないこと。腕っ節では同年代の男の子はおろか、女の子にも勝てないこと。裕一は、人に誇れるものがなにもない自分に、自信がなかったのだ。そんな息子に喝を入れられない三郎もまた、自信がない。 実業家である義兄の権藤茂兵衛(風間杜夫)からは見下されているし、従業員からの信用もイマイチ。しかし、この時苦し紛れに提案した「一緒にレコードを聴こう」という言葉が、裕一の才能を芽吹かせるキッカケになったのだ。 西洋音楽のレコード「威風堂々」に、目を輝かせて聴き入る裕一の様子を見た三郎は、ご飯もそこそこに蓄音機にかじりつく裕一を、ただ見守った。休日の午後は、お昼寝がてら2人で蓄音機の前に寝転び、一緒に音楽を楽しむ。新しいレコードはもちろんのこと、作曲の宿題が出たと聞けば、さっそく五線譜ノートと小山田耕三(故・志村けん)が記した『作曲入門』を買い与えるという、まさに全力のエール。 他人からすると「甘やかし」にも映るが、とにかく三郎は、裕一が音楽に触れる環境をできる限り整えてやろうと、熱心だった。その上で、口出しや手出しをせずに(単純にできなかったのかもしれないが)、裕一自身が必要なことを吸収し、糧にしていく成長をただひたすら見守る。 三郎のような行動は、なかなかできることではない。「お金をかけた」という気持ちがあるため、最低限その分の見返りが欲しい、いやあるべきだなどと理屈をつけて、ついあれこれ口を出しては、子どものやる気を削いでしまうのは、我が身を振り返っての反省でもある。 仮に、夫に三郎と同じような行動ができたとしても、妻の立場だったらなにかしら手出ししたくなるのが普通だと思うが、母・まさが三郎を上回る「見守り型」だったのが、裕一にとってなによりの幸いだった。なにせ、出産したばかりの自分を置いてレジスターを買いに走った夫を笑って受け入れるくらい、まさは懐と情が深いのだ。裕一とあわせて夫も見守っている心持ちだったに違いない。 5話で藤堂先生(森山直太朗)がわざわざ自宅を訪ねてきて、「裕一くんには、類い稀な音楽の才能があります」と言われたときの三郎とまさの様子は、親目線で観るとかなり印象的だった。得意なものが見つかったのなら、しがみつけと裕一を励ます藤堂先生に、熱い眼差しを向ける三郎。その心中には、息子の才能を見つけ認めてくれた藤堂への感謝と同時に、自分の育て方は間違っていなかったという喜びと安堵があったと思う。 一方まさは、藤堂の言葉に目を輝かせる裕一を、じっと見つめていた。3話の運動会、徒競走で転んだ裕一が、あきらめずにゴールした様子に感激したのとは違う、じんわりと噛みしめるような喜びの表情からは、一抹の不安も含まれていたように感じた。音楽の才能があっても裕一はいずれ、子供がいない権藤の実家の跡取りとして、養子に出される可能性が高い。今はいいけれども、いつまで音楽と向き合う息子を見守り続けられるのだろうかと、手放しで喜べない複雑な思いがよぎったのだろう。 三郎とまさは、商業学校を留年するほど音楽に夢中になった裕一を支えて続けてきたが、とうとう13話で、代々守り続けてきた呉服屋「喜多一」が資金繰りに窮してしまう。そして遂に、援助を受けるかわりに、義兄・権藤茂兵衛(風間杜夫)の元へ裕一を養子に出すこととなってしまった。それでも「諦めんなよ」と三郎は声をかけ、まさは「辛い時、支えてくれるのは音楽だと思うから」と養子先に送る荷物にハーモニカを偲ばせた。 良い時も悪い時も、親としてできることは見守ることだけなのかもしれない。だからこそ、手出し口出しを抑え、子どもが自分の力で成長していける環境をつくること。それが、裕一の才能を開花させた三郎・まさ夫婦の子育てだったのだ。 ◆子どもの挑戦を後押しする“褒め上手”関内家の子育て法 「やらずに後悔するより、やって後悔したほうがいい」 後に、音(二階堂ふみ)が音楽学校で「椿姫」のオーディションを受ける決意をしたときに、父が遺した言葉だと言ったセリフは、7話で小学生だった音(清水香帆)が、教会の聖歌隊に飛び入り参加するときに言われた言葉だ。 「自分も歌いたい!」と言ったものの少し躊躇した娘の様子を見て、父・安隆(光石研)は「自分で行ってごらん」と背中を押し、「お父さんはここで見ているから」と送り出した。自分の力でやることの大切さ、その結果味わうことができる達成感や充実感、なによりも見守ってくれる存在がいることの心強さ。ほんの1シーンだったが、安隆の子育て方針がよく表れたエピソードである。 また7話の後半では、音に他者の立場を思い遣ることを教えるため、自分で考えて答えを出すようにうまく誘導している。それが、学芸会で主役に選ばれなかったとふてくされる音を諭したシーンだ。一緒に出る劇で、他の人が嫌々演じていたらどう思うかと質問を投げかけ、「ちゃんとしてと思う」という答えを引き出した安隆は、人にはそれぞれの役割があることを、こう説明した。 「だれもが主役になれるわけじゃない。だけど主役だけでも、お芝居はできん。必ずそれを支える人がいるんだ」。子どもが納得するように、きちんと言葉で説明すること。その前提として、子どもを一人の人格として対等に向き合う姿勢こそが、関内家の子育て法だろう。 そんなステキな行動ができる安隆は、元陸軍の獣医。妻・光子(薬師丸ひろ子)とは、家でダンスを踊ったり晩酌したりするほど仲むつまじく、3人の娘にも惜しみない愛情を注いだ。その結果、3人姉妹は全員自己肯定感がとても高く、行動力にあふれた子に育っている。その良さが発揮されたのが9~10話で、父の急死によって廃業寸前に追い込まれた一家の奮闘ぶりだ。 「逃げた職人たちを見返してやる!」と力強く宣言する音。そんな音の気迫に鼓舞され、解決の糸口を探した音の姉・吟(本間叶愛)は陸軍との契約書が切り札になることに思い至る。一家総出で探した結果、光子が契約書を発見。それを盾に見事、家を守ることに成功した。 安隆亡き後も三姉妹の心を支えたのは、「みんなの思い出の中にお父さんはいる、見えないけれどずっとそばにいる」という光子の力強い言葉だった。陸軍との契約終了をちらつかせて仲介の男から言い寄られても屈せず、取引先を回ってなんとかしようとしたこと。職人たちが辞めても、それぞれの人生があるからと恨み言を言わずにいたこと。光子の清廉な人柄と前向きな行動、そして誰が相手でも物怖じせずに対等に話す度胸と交渉力は、音にもしっかりと受け継がれている。 音ががんばれるのも、素敵な男性と結婚する夢を叶えた吟(松井玲奈)の根気強さも、小説家になることを夢見て邁進する梅(新津ちせ/森七菜)の力の源も、「お父さんが見守ってくれている」という想い。スピンオフとして放送された58話でこの世にやってきた安隆は、自分の愛情が娘たちにきちんと伝わっていることをその目で確認することができた。その安隆の、あの世へ帰るときに見せた安心したような顔がとても印象的だった。 こうして振り返ってみると、古山、関内両家とも「子どもをありのまま受け入れること」が、子どもの力を伸ばすことに繋がっていることに気づく。だが、言うは易く行うは難し。まずは「目の前のことにいっしょうけんめいになりなさい」という、環(柴咲コウ)の言葉に従おうと思う。 取材・文:中村美奈子

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