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ANA、空飛ぶウミガメA380就航から1年 3機揃うのは秋?

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Aviation Wire

 大きな飛行機は世を問わず人気を集める。5月23日午前6時すぎ、中部空港(セントレア)に世界最大の超大型貨物機アントノフAn-225「ムリーヤ」(登録記号UR-82060)がやってきた。中国・天津から中部と米アンカレッジを経てカナダ・モントリオールへ向かうフライトで、中部には給油のためのテクニカルランディングで立ち寄った。2010年6月21日以来10年ぶり2度目の飛来で、空港を運営する中部国際空港会社のTwitterの投稿は数多くリツイートされ、「いいね」が付いていた。 【A380のファーストクラス】  ウクライナ語で「夢」を意味するムリーヤは運航可能な機体が世界でたった1機で、6基のエンジンで大量の貨物を一気に運ぶことができる。この週末はペイロード250トンの超大型貨物機が注目を集めたが、1年前の5月24日は最大520人をハワイへ運べる総2階建ての超大型機エアバスA380型機「FLYING HONU(フライング・ホヌ)」の就航が大きな話題になった。  A380を運航する全日本空輸(ANA/NH)を傘下に持つANAホールディングス(ANAHD、9202)が新造機を3機発注したもので、全機を成田-ホノルル線に投入。エンジンが4基ある旅客機による定期便を日本の航空会社が運航するのは、2014年3月31日にANAのボーイング747-400D型機が退役して以来、5年1カ月ぶり。就航前から非常に関心が高く、昨年の夏休みは56席あるビジネスクラスの予約が困難になるなど、話題だけでなく収益面でも好調だった。  ところが、中国から拡散した新型コロナウイルスの影響を受け、3月25日に成田へ到着したホノルル発NH181便(JA381A)を最後に、ホノルル線そのものの運休が今も続いている。本来であれば、5月24日は就航1周年で何らかのイベントが開かれてもおかしくなかったが、運休していては祝いようがない状況だ。  緊急事態宣言の全国的な解除が近づく中、改めて「空飛ぶウミガメ」の意味を持つフライング・ホヌの足跡を追ってみよう。(肩書きや所属などは取材当時のもの) ◆家族連れ意識した機内  ANAのA380導入を語る上で避けては通れないのが、5年前の2015年に経営危機に陥ったスカイマーク(SKY/BC)の支援だ。ANAがA380を導入するのでは、という話は2015年夏ごろから業界内で話題となり、私も複数の関係者から証言を得ることができた。ANAはスカイマーク支援とA380導入は別と説明しているが、このころから導入が現実味を帯びてきたことは事実で、年が明けた2016年1月29日に導入を正式発表している。エアバスの受注歴では、2015年12月16日付で匿名顧客から3機のA380を受注しており、当時2年近くオーダーが入らなかったA380が久々に受注を獲得した。  同時に、A380の投入路線はホノルル線であることが発表された。ハワイと言えば日本人に人気の観光地で、マイルを貯めて特典航空券で行きたいというニーズも高い。一方で、日本航空(JAL/JL、9201)は1954年2月に就航しており、65年の歴史で地元ともにハワイ観光を盛り上げている。ボーイング787-9型機2便分の乗客を一度に運べるA380により、多頻度利用客の要望に応えつつ、JALの牙城ハワイに攻め込むものだ。  ANAではこれまで、客室を国際線と国内線の大きく2つに分けて開発していたが、A380導入を機に「リゾート」というカテゴリーを設けた。開発を担当する商品戦略部の牧克亘マネジャーによると、客室が広い分、ほかの機体ではできなかったことに挑戦してみようと、ほかの国際線機材とは別立てでシートを考えていったという。  ANAのA380は座席数が4クラス520席で、同社のホノルル線では初めてファーストクラスを設定した。出張でためたマイルを特典航空券に交換し、家族で使ってもらうといったニーズのほか、富裕層のハワイ旅行需要を狙った。そこで、日本初のドアを備えた個室タイプのファーストクラスに仕上げた。  4クラス520席のうち、アッパーデッキ(2階席)にファーストクラス8席(1-2-1席配列)と、全席通路アクセス可能なフルフラットシートのビジネスクラスを56席(1-2-1席)、プレミアムエコノミーを73席(2-3-2席)。メインデッキ(1階席)はすべてエコノミーで383席(3-4-3席)、後方6列60席は日本初のカウチシート「ANA COUCHii(ANAカウチ)」とし、家族旅行などの需要を狙った。1階後方のカウチシート近くに多目的ルームを設けることで、おむつ交換や授乳といったニーズにも対応している。  当初はペットルームなどのアイデアもあったが、臭いをどうするかといった課題もあり、小さな子供連れの家族が必要とするスペースを設けた。  カウチシートも家族連れを念頭に置いたもので、隣接する席のレッグレストを上げ、左右の窓側3席または中央4席をベッドのように使える。大人2人が並んで寝るのは厳しいが、子供が畳やカーペットと同じように過ごせる点もこれまでにない特徴だ。  しかし、初挑戦の中でもカウチシートの開発は、特に最後まで気を抜けなかったようだ。商品企画部のマネジャー、三井所由佳子さんは「シートメーカーも私たちもカウチは初めてで、開発時は予測できないトラブルが発生していました。全シートの中で、みんなをヒヤヒヤさせたシートです」と明かす。24日の初便には三井所さんも乗り込み、カウチを乗客がどのように使っているのかなどのメモを取っていた。  ビジネスクラスのフルフラットシートよりも、カウチのほうが家族で過ごしやすいという反応もあったようだ。 ◆2000点超の応募から選ばれたウミガメ  フライング・ホヌの大きな特徴は、ハワイで神聖な生き物とされ、ハワイ語で「ホヌ」と呼ばれるウミガメをモチーフとしたデザインだ。全機にハワイの空と海、夕陽をイメージした特別塗装を施し、初号機が青(ANAブルー)、2号機が深緑(エメラルドグリーン)、3号機がオレンジ(サンセットオレンジ)と、1機ごとに色とカメの表情が異なるデザインが採用された。2号機はほほ笑み、3号機は女の子を想起させる表情だ。  デザインは2016年10月7日から11月30日まで募集し、世界各国から2197作品の応募があり、「ウミガメの家族」をコンセプトにした東京都の自営業・増岡千啓(ちひろ)さんのデザインが大賞に選ばれた。日本とハワイ双方で縁起ものとされていることも、ウミガメが選ばれる理由の一つだった。  初号機は2018年12月13日に、独ハンブルクにあるエアバスの塗装工場をロールアウト。16色の塗料が使われ、120人の作業者が21日掛かりで複雑なデザインの塗装を仕上げた。  機体が完成すると、客室などを仕上げていく段階に入った。2019年1月、2カ月後の初号機受領に向けて、ANAのさまざまな部署の社員がハンブルクのエアバス工場で機体の最終確認作業を行っていた。シートなど客室の仕上がりはもちろんのこと、ハワイでは6色と言われている虹をイメージしたライティングも、どのようなスピードで色や明るさを変えていくべきか、乗降時の安全性なども考慮しながら、実機でなければわからない問題点をつぶしていた。  そして現地時間3月20日、ANAのA380初号機が仏トゥールーズで引き渡された。日本の航空会社がA380を受領するのは初めてだった。成田には21日に到着し、放水アーチによる歓迎を受けた。その後は4月6日の成田-関西間を皮切りに慣熟飛行が実施され、4月17日には初めてホノルルのダニエル・K・イノウエ国際空港(旧称ホノルル国際空港)に降り立った。同空港に初めて設けられたA380のアッパーデッキへ直接搭乗できるPBB(搭乗橋)などを、5月24日の就航前に実機を使って確認する「フィットチェック」のためだ。  ホノルルには、海外の就航先で唯一の自社ラウンジを新設。ファーストクラスの乗客やマイレージサービス最上級会員用の「ANAスイートラウンジ」と、ビジネスクラス客などが使える「ANAラウンジ」を設けた。超大型機の導入だけでなく空港の施設も大きく改修し、まさに総力戦だ。 ◆3号機受領は今秋か  そして、5月24日。成田空港の43・44番搭乗口前の特設ステージでフラダンスなどのパフォーマンスが午後6時30分から開かれた後、初便のホノルル行きNH184便は乗客512人(幼児13人含む)と乗員24人(パイロット2人、客室乗務員22人)を乗せ、午後8時10分に成田空港の45番スポット(駐機場)を出発。午後8時38分にA滑走路から離陸した。ホノルルには現地時間24日午前8時36分に到着し、A380の商業運航が無事スタートした。  6月18日には2号機も就航。5月15日に受領し、同月18日に仏トゥールーズから成田空港へ到着した機体で、当初は7月1日の週10往復化と同時に就航予定だったが、整備作業が早く終わったため前倒しとなった。  最後の3号機は、今年1月24日にハンブルクでロールアウト。4月にはANAへ引き渡される予定だったが、現時点では受領を半年程度遅らせて秋ごろになる計画だ。  就航時は週3往復でスタートし、7月から週10往復に投入便数を増やしたA380。最終形となる週14往復体制は、今年6月1日からを予定していた。しかし、新型コロナウイルスの影響で見直しとなっており、運航再開時期やどの程度A380を投入するかも、まだ決まっていない。  ANAによると、2019年度は想定以上の利用があり、特典航空券での利用を増やすことができた点をA380導入の効果として挙げた。ハワイを意識した客室や機内サービス、機内食などが乗客のニーズと合ったとみている。  自粛疲れやテレワーク疲れなど、さまざまな新型コロナ由来の疲れがみられる中、空飛ぶウミガメで行くハワイはいつごろ再開となるのだろうか。

Tadayuki YOSHIKAWA

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