史上たった9度の珍事、箱根駅伝はなぜ大波乱になった? 走りの専門家が分析した意外な未来予想
2021年、1月2日、3日に行われた第97回箱根駅伝は、優勝候補の相次ぐ不振、創価大の往路優勝、10区での大逆転と波乱含みの大会となった。厚底シューズが席巻し、“高速化”に注目が集まっていた近年の箱根のトレンドに変化はあったのか? 箱根駅伝を陸上競技の要となる「フォーム」から分析しているランニングコーチ、細野史晃氏に、今年の箱根の「なぜ?」をぶつけた。(解説=細野史晃、構成=大塚一樹[REAL SPORTS編集部])
史上最遅? 超スローペースのスタートの「なぜ」
1kmの通過タイムは3分33秒。2021年の箱根駅伝は、「史上最も遅いのでは?」と誰もがザワつく出だしになった。ここ数年のトレンドである「高速化」に肩透かしを食ったのはファンや識者だけでなく、多くの強豪校がペースを乱す結果になったともいわれている。 『マラソンは上半身が9割』などの著書を持ち、物理や解剖学、生化学などの観点から多くの選手のランニングフォームを科学的に解析しているランニングコーチ、細野史晃氏は選手たちの走り方は、明らかに互いに様子をうかがうような特徴が見て取れたという。 「序盤からどの選手も腕の振りがゆっくりで、フォーム全体にも緩さが見られました。普通に走っているときは、硬式のテニスボールが弾むようなリズムなのですが、1区の選手たちはボールから空気が抜けたような弾み方。かと言ってそれが全力というわけではなく、周囲の様子をうかがいながらいつでもスイッチを入れられるような緊張感がフォームにも見えました」 細野氏もここまで極端なスローペースは予想していなかったというが、お互いをけん制し合った理由については、一つの推論が立てられるという。 「改めて1区の出走メンバーを見ると、納得できることがあります。それは、1区における1年生の存在です。大会前から大注目選手としてマークされていた三浦龍司(順天堂大)選手を意識していたチームは多いと思いますが、そのスーパールーキーに対し、駒澤大、明治大、国士舘大、山梨学院大の4校が同じ1年生を起用しています。ただでさえも初めての箱根で緊張がある中で、同年代のスーパースターが同走する状況では、思い切ったレースは望めません。駒澤は16位、躍進が期待された明治も17位に沈むなど、1年生起用が失敗に終わったのは明らかですし、2位の東海大、塩澤(稀夕)選手は、ペースを上げようとして余計な消耗をしてしまいました」 当のスーパールーキー三浦も、トップと31秒差の11番目で襷をリレー(順位は10位)と振るわず、「1年生の箱根」の難しさを象徴するような結果となった。