レイプとアシッド・アタックの被害から立ち上がった活動家、ケイティ・パイパー。
もしもデートレイプに遭遇したら、さらにその顔に見知らぬ男から酸をかけられたら──。不運なことに、そんな凄惨な事件に巻き込まれてしまった女性がいる。イギリスのTVプレゼンター兼モデルで、「ケイティ・パイパー財団」創設者のケイティ・パイパーだ。現在も治療を続ける傍らで同じ境遇の人を救うべく奮闘する彼女に、イギリス中から賞賛が巻き起こっている。
「人生には、他の人より強くならなければならないことがあります。でも、それを不平等だと嘆いてもいいし、怒りを覚えても、悲嘆にくれてもいい。そうやって感情を露わにすることは、弱いということではないんです。むしろ感情を放出することが、強さに繋がるのですから」 昨年、イギリスメディアにこう語ったのは、TVプレゼンターで活動家のケイティ・パイパーだ。現在37歳の彼女は、夫と二人の子どもたちとロンドンで暮らしている。そう聞くと順風満帆な人生を歩んできたように思えるが、彼女は今から約12年前、自身の肩書に「活動家」が追加されるきっかけとなった凄惨な事件により、心身に大きな傷を負った。 事件が起きたのは2008年3月、ケイティが24歳の時だった。彼女はダニエル・リンチという男とオンラインで知り合い、フェイスブックを通じてメッセージを交換し合っていた。そして最初のやりとりから2週間後、二人は実際にロンドンで会うことになったが、ケイティは男の様子に違和感を覚えた。すぐにその場を立ち去ろうとしたものの、彼女は男に取り押さえられ、性暴力を受けた。しかし、それだけでは終わらなかった。2日後、狂気に満ちたリンチと結託して彼女を待ち伏せしていた男ステファン・シルベスターがケイティの顔に酸をかけたのだ。幸い、犯行現場は防犯カメラに映されていたため、シルベスターは即座に逮捕され、リンチとともに終身刑の判決が下った。二人は現在も服役中だ。 顔に酸をかけられたケイティはすぐに近くのカフェに駆け込み、酸が骨を溶かす激痛と闘いながら、ウェストミンスター病院に緊急搬送された。まぶた、鼻、片耳は重度の火傷でただれ、左目は失明、12日間も昏睡状態に陥った。現場に駆けつけた彼女の母ダイアンは、その時の心情をイギリス『ガーディアン』紙にこう語っている。 「ケイティが築いてきたキャリアも、未来も、美しかった顔も、永遠に壊されてしまいました。ピアニストが指を失うようなものです。でも、あの子は生きている。生きてさえいれば、なんとかなる。それでも、退院した後のあの子の人生を考えずにはいられませんでした」 レイプの被害者となった上、顔に酸をかけられ、心身ともに深い傷を負った彼女は、この時母親にメモを渡した。 「お母さん、私を殺して」 しかし、それから1年後、ケイティは周囲も驚くような精神力で再び立ち上がったのだ。