速さは韋駄天のグランデ・プント・アバルトに遜色ない アルファ久々のスモールカーのミトはどんなアルファ・ロメオだったのか?
あの頃のアルファは安かった?
ご存じ中古車バイヤーズ・ガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の過去の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2008年9月号に掲載したアルファ・ロメオ・ミトのリポートを取り上げる。当時、ヨーロッパではガソリン・エンジンの小型化+ターボ過給化が進んでいた。アルファが満を持して投入するスモールカー、ミトの心臓もターボ・ユニットだった。 【写真16枚】アルファ・ブランド久々のコンパクトハッチとして登場したミトはどんなクルマだったのか? 詳細画像でチェック ◆愛くるしい瞳はまるで小悪魔 抱きしめたい! 見た瞬間にそう思った。空の下で目にしたミトは、写真よりもずっとキュートだった。プリティというよりもキュートというほうが似つかわしい。それがクルマではなくて女性だったら、ほんとうに抱きしめていたかもしれない。愛くるしい瞳はまるで小悪魔のそれのようだった。 アルファ・ロメオが久々に投じるスモール・カーたるミトの成功は、約束されたも同然だろう。初対面で見初めるひとがどっと生まれるに違いない。ボディはグランデ・プントとほぼ同じサイズだから、小さいという印象を抱ける範囲にギリギリとどまっている。幅が1.7mを2cmほど超えてしまうので、日本での登録は3ナンバーになってしまうけれど、上陸すれば、きっとあっという間に人気者になるだろうと思う。 バカンス前に駆け込みよろしく国際試乗会が行なわれたけれど、イタリアでの発売は長い夏が終わってから。9月以降の予定だ。日本市場への輸入開始は、右ハンドル仕様の生産立ち上がりを待って、2009年春以降ということらしい。それまでには、シリーズ随一の高性能バージョンとなるGTAも発表されることになっているから、注目度もさらに上がるに違いない。 ◆中核モデルとなる1.4TB 国際試乗会に用意されたモデルは、欧州市場でシリーズの中核を成すことになる1.4リッターガソリン・ターボと、新開発の1.6リッターディーゼル・ターボだったが、試乗車の台数が少なかったこともあって、ガソリン・ターボを選んで試すことにした。 二酸化炭素排出量を可能なかぎり下げよと強大なプレッシャーがEU委員会からかけられている欧州のメーカーは、ディーゼルがコモンレール式直噴システムの熟成域に入って開発が一段落したのをうけて、後手に回っていたガソリン・エンジンの燃料消費率向上(=二酸化炭素排出量削減)にいよいよ本気の取り組みを見せている。 日本にもすでにVWの一連のTSIユニットやプジョー308の1.6ターボが輸入されて、その方向性が目に見えるようになってきたように、新世代ディーゼル開発で得たノウハウのガソリン・エンジンへの転用が始まったのである。小排気量エンジンに高度な電子制御を加えたターボ過給を施すことで、例えば旧来の高性能2.0リッター自然吸気エンジンに匹敵する最高出力とそれを超える最大トルクを、1.4ないしは1.6リッターといったひとクラス下の小型エンジンから引き出しつつ、部分負荷時の燃料消費量をグッと引き下げるという手法である。 フィアットも例外ではなく、小型軽量で鳴るFIRE系の1.4リッターにターボ過給を施して、従来はひとクラス上のスーパーFIRE系1.8や2.0さらには2.4リッターを使っていた車種に、搭載を始めている。すでにグランデ・プントには120ps仕様が載っているし、その上のブラーボには150psのタイプも使われている。発売されたばかりの新型ランチア・デルタにも同様の構成で搭載された。すでにイタリアの街を元気よく走り回っているグランデ・プント・アバルトに使われているエンジンも、チューニングこそ違え、基本的に同じ構成を採用したものだ。 この秋にイタリアと欧州各国で販売が立ち上がる時点で、アルファ・ミトに用意されるエンジンは2種類だが、そのひとつがやはりこの1.4ガソリン・ターボ(155ps)で、新開発1.6ディーゼル・ターボとともに、シリーズ完成後もその中核を成すモデルとして位置づけられている。そして、これが従来(最高出力と動力性能がほぼ等しい147の2.0ツインスパークを想定しているらしい)比較で、EUモード測定時に炭酸ガス排出量をじつに30%も削減したと誇らしげにうたっている。ちなみに、ギアボックスは現時点では6段MTのみの設定である。 イタリアでは、2009年1月に運転免許制度に関する法の改正が予定されていて(本来は2008年7月の予定だった)、施行予定の新法では免許取得初心者は馬力荷重比が50kW/t(68ps/t)を超えるクルマの運転が出来なくなる。そうしたヤング・ドライバーの救援策として、ミトには78psの自然吸気1.4リッターユニットも用意される。 78ps版はイタリアだけのモデルとなるようだが、追って何種類かのエンジンが設定されることになっていて、なかでも注目されるのが、新開発1.8リッター直噴ガソリン・ターボである。アルファは詳しい内容には言及しなかったものの、情報をかき集めてみると、とりあえず200ps仕様がデュアル・クラッチ・ギアボックスとの組み合わせで設定される模様だ。今回、国際試乗会のプレゼンテーションの場では、GTAがスタンバイ状態にあることをアルファは言明したが、それにはさらにハイパワーに仕立てられた230ps仕様が投入されるのだという。 この新開発1.8は、80年代半ばにFIREエンジン、90年代前半にその上を担うスーパーFIREエンジンを開発して以来久々に、腰周りも含めて全面的に新規設計・開発された新世代ユニットで、アルファ用スーパーFIREで経験を積んだ燃料直噴システムが投入されるほか、スロットル・バルブの代わりにバルブ・リフト量の連続可変機構を使う、いわゆるバルブ・トロニック・システムも投入される。フィアットはこれをマルチエア・システムと呼ぶ。 フィアット・グループのエンジンと変速機の開発はグループ内に独立部門化されたFPT(フィアット・パワートレイン・テクノロジー)によって行なわれているが、そのFPTがデュアル・クラッチ・ギアボックスの開発を進めている。最近発表されたBMWとの提携検討は、これを横置きエンジンを使うMINIへ供給することを前提としてのもののようだ。さらに次世代モデル(次期ミニとミト後継機種)ではプラットフォームの共用も可能性としてあるらしい。見返りにフィアットはBMWからアルファ・ブランドの北米市場復帰の支援を得るのだという。 ◆ミトはアルファ復活の起爆剤だ アルファGTV/スパイダー、アルファ156/147という一連のスマッシュヒットによって、ルネッサンスにも例えられるほどのリバイバルを果たしたアルファ・ロメオは、ここのところ失速気味の様子で、ファンをやきもきさせていたわけだけれど、先の限定モデル、8Cコンペティツィオーネに続くこのミトの投入によって、一気に息を吹き返しそうだ。炭酸ガス排出規制も小排気量エンジンを得意とするフィアットには追い風そのものといった感じだ。来年後半には149の発表が控えているし、その先には大型後輪駆動モデルの投入も現実的なセンとして見え隠れしてきた。なんともワクワクするではないか。 それはそうと、ワクワクどころか初対面でいきなりハートを握り締められるようなドキドキを感じたミトに乗ったらどうだったか、という肝心の話もしなければならない。 先に書いたように日本市場導入は来春以降になるから、それまでに再度リポートする機会が必ずあると思うが、とりあえず、今回試すことのできた1.4TB(ターボ・ベンジーナ)はどうだったかを書こう。 乗ったのがプロモーション用のプリプロダクション・モデルなので、まだ断定は避けたいとは思うけれど、ミトはかなりイケる。 すっかり定番となったアルミのグリップ式ハンドルを引いてドアを開けると、期待どおりのアルファ・コクピットが待っていて、しかも乗り込むと、ドライビング・ポジションの自由度がきわめて大きいことにすっかり頬が緩んでしまう。ステアリングにチルトとテレスコピックの調整が効くだけでなく、ドライバーズ・シートの高さ調整代が驚くほど大きくとられていて、なにもそこまでと思うほど低くセットすることもできる。クネクネと肩を揺すってみると、ショルダー・サポートが十分に確保されていることもわかった。 気を良くして走り始めても、好印象は変わらない。速さは韋駄天のグランデ・プント・アバルトに遜色ないし、ハンドリングも概ね好印象。僕が選んだのは205/45R17というオプション・サイズが装着された個体だったが、乗り心地も申し分なかった。当日用意のなかった標準装着タイヤは195/55R16。この日もう1種類用意されていたのはPゼロ・ネロの215/45R17。オプション・リストにはさらに過激な225/40R18というサイズまであるが、経験に照らし合わせるに、ポテンザ050Aを使うこの205/45R17オプションが、ベスト・コンプロマイズではないかと想像する。 ステアリングの感触は、いかにも近年のアルファのそれといったもので、操舵時よりも保舵時のほうが少し軽い。全体に軽めの設定もそうで、標準装着される電子制御ダンパーやエンジン制御プログラムと連携して切り替えられるアルファDNAシステムのモードを、ノーマルからダイナミックに切り替えても、わずかに重くなってダイレクト感を増すだけで、電動アシスト式に危惧される不自然な感触はほとんど出ない。トルクステアもよく抑えこまれている。 それよりも制御マップの切り換えで一気にエンジンのレスポンスが良くなり、と同時にオーバーブースト機構が働いてトルクがグッと太るのに、嬉々とするばかりだった。 ミト、ヒット間違いなしである。 文=齋藤浩之(本誌) 写真=フィアット・グループ・オートモビルズ・ジャパン ■アルファ・ロメオ・ミト1.4TB 駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動 全長×全幅×全高 4063×1721×1446mm ホイールベース 2511mm トレッド 前/後 1483/1475mm 車輌重量 1145kg(DIN) エンジン形式 水冷直列4気筒DOHC 16バルブ+ターボ過給 総排気量 1368cc 最高出力 155ps/5500rpm 最大トルク 23.5kgm/3000rpm 変速機 6段MT(FIAT M32) サスペンション形式 前 マクファーソン・ストラット/コイル、電子制御ダンパー サスペンション形式 後 トーション・ビーム/コイル、電子制御ダンパー ブレーキ 前/後 直径305mm通気冷却式ディスク/直径251mmディスク タイヤ 前後 195/55R16(op.205/45R17他) 日本市場予想価格 250万円前後から? (ENGINE2008年9月号)
ENGINE編集部
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