<私の恩人>武井壮、嫌なヤツだった頃…「いきものがかり」と奇跡的な出会い
そこにお客さんがいるかどうかも分からないところに来て、一生懸命、楽しそうに、何とか成功したいと思って歌っている。そうやって、この1分を使っている。逆に、今、俺は何をしてるんだと。「自分には力があるのにチャンスがない、お金がない、スポンサーがつかない…」そんなことばかり考えながら、荒(すさ)んだ顔で1分を過ごしている。この違いは何なんだと。瞬間的に、そんな思いが頭を駆け巡ったんです。今まで自分の中になかった感情を生んだ、その路上ライブ。やっていたのが、メジャーデビュー前の「いきものがかり」だったんです。 その日を境に、もう1回、本気で頑張ってみようと。考えに考えた結果、その方向が芸能だったんです。その子たちも歌、すなわち芸能だったし、エンターテイナーの人って、自分の力で何千人、何万人を瞬間的に幸せな気分にできる。それって、魔法だなと。 …あとは、ま、24歳で亡くなった兄のこともありました。兄は、中卒ですぐに俳優の世界に飛び込んで、亡くなるまで10年足らずでしたが、懸命に芸能の世界で頑張った。その世界への意識が、スポーツをやりつつも僕の中にもあったんですよね…。兄が目指した世界と、自分のできること、その融合ができないものかと。漠然とあった、そういう思いの導きをしてくれたのも、彼らでした。 その日から、オーディションに行ったり、芸人さんがたくさん来られる西麻布のバーに通い詰めたり、スポーツと芸能という両方の要素がある欽ちゃん球団(茨城ゴールデンゴールズ)に入ったり。武井壮という人間の目指すべきところを考えたんです。そして、路上ライブから2年くらい経った頃。たまたまテレビをつけてたら、耳を疑う声が聞こえてきたんです。NHKの「ポップジャム」という番組だったんですけど「きょう、テレビ初登場!!『いきものがかり』の皆さんです」と。画面に目を向けると、駅前で歌ってたあの子たちだと。あの日、自分に衝撃を与えた彼らが、メジャーデビューしている。しかも、NHKにも出るようになって、それをたまたま俺が見ている。 そこから、さらに強い縁を感じて、ライブがある度に足を運び、CDが出る度に買いました。そして、2012年、俺が世に出るきっかけになった「SMAP」中居正広さんの番組「うもれびと」(フジテレビ系)があって、ありがたいことに武井壮という人間が少しは世間の皆さんに知ってもらえるようになった。すると、以前から、ツイッターでは「『いきものがかり』が好き」とつぶやいていたこともあり、今まで自分でチケットを買っていたコンサートに、招待していただける機会を得たんです。