並行宇宙、パラレルワールドって、ほんとに存在してるの?
パラレルワールドの誘惑。 これまでの人生の中でやりなおしたい、または別の選択肢を選びなおしたいと思ったこと、ありませんか? もし選択肢の数だけパラレルワールドが存在しているとしたら、別の世界に行って「別のあなた」になりかわってみたいと思いますか? そんなアホな、という質問ですら専門家にバンバン聞きまくる米Gizmodoの「Giz Asks」シリーズ。 今回は、並行宇宙というものが存在しうるのかどうか、5人の専門家の率直なご意見をいただいてます。
存在している可能性は否定できず
Luke Barnes(ウェスタンシドニー大学博士研究員。専門は天文学と宇宙論。著書に"The Cosmic Revolutionary's Handbook (Or: How to Beat the Big Bang)"、"A Fortunate Universe: Life in a Finely Tuned Cosmos” まずは現実を把握しておきましょう。並行宇宙が存在しているという確固たる物理的証拠はありません。そして、これまでに行われた観測や実験において、並行宇宙の存在が必要不可欠だった場合はまだありません。いきなり水を差すようで申し訳ないのですが。 では、なぜ一部の科学者はそれでも並行宇宙について研究しているのでしょうか?それは並行宇宙が存在するかもしれないことには変わりないからです。あるかもしれないという前提で探究しなければ、探しているものの正体を知ることは到底できません。それに、興味深いヒントもいくつかあります。 マルチバース(多元宇宙)から始めましょう。わたしたちが見る限りの宇宙は全方向にほぼ同じように広がっていますから、もっともシンプルなところではわたしたちが見ていない部分の宇宙も同じような状態にあると仮説を立てられます。ところが、宇宙が与えてくれたいくつかのヒントによれば、この宇宙ではビッグバン直後に「宇宙のインフレーション」というプロセスが始まり、宇宙が急速に拡大していったと推察できます。そして、この宇宙のインフレーションが起こるための条件を考えていくと、宇宙がどこも同じではないことが導き出せるのです。実は宇宙はどこも同じではないとすると、例えば宇宙のほかの場所では素粒子が我々が知っているものよりも重かったり、重力がより強力だったりすることも考えられます。 もしマルチバースが存在するとしたら、宇宙についての最大の謎がひとつ解けます。いわく、なぜ生命を維持できる宇宙が存在しうるのか? 宇宙が今以外の状態で存在していた可能性を物理学者たちが考察すればするほど、多くは生命を維持するには致命的な欠陥を抱えているのです。単純すぎたり、逆に複雑すぎたり、熱すぎたり、短命すぎたり…。生命が存在できる宇宙(わたしたちの宇宙)はあらゆる可能性に反して存在しています。ほかにもたくさんの宇宙が存在しているのかもしれませんが、生命を維持できる宇宙は稀です。わたしたちは宇宙の宝くじに当選したようなものなのです。 物理学者たちが研究している「多世界解釈(Many Worlds Interpretation )」というのがあります。マルチバースが他の宇宙に言及しているのなら、多世界はパラレルワールドについての仮説です。 量子力学は物質がどのようにふるまうかについて論じる学問で、すでに発見されている数式は物質のふるまいを驚くほどよく説明しています。しかし、その数式から導き出される宇宙に関しての考察については、物理学者の間で見解が分かれています。 その見解のひとつが多世界解釈です。量子力学ではよく「猫は生きている+猫は死んだ」というような表現をします(訳注:量子の状態が観測されないかぎりは重ね合わせで同時に存在していることを説明する「シュレーディンガーの猫」という思考実験に関連していると思われます)。この場合の「+」はどういう意味でしょうか? ある解釈によれば、これは「猫は生きても死んでもいないけど、ネコを計測すれば50%の確率でいずれかの状態を観測(そして、ある意味作り出す)ことができる」ということです。これを多世界解釈した場合では、「ふたつの並行した世界があり、ひとつの世界では猫が生きていて、もうひとつの世界では猫は死んでいる。猫を計測すれば、どちらの世界にいるかが明らかになる」となります。ほかにも解釈のしようはさまざまです。 多世界解釈の支持者たちにとって、このアプローチの利点は「計測」という曖昧な行為が仮説を定義する重要な役割を担うことを回避しているところにあります。「計測」の定義とは一体どのようなもので、何から何までを指しているのでしょうか? なにか器具を使う? ノミ? 犬? 大学生? これは単に難しい問題だというよりは、まったく扱うべきではない間違った路線の問題です。 もうひとつ、並行宇宙を作り出す方法として異次元があります。わたしたちが慣れ親しんでいる三つの空間次元とひとつの時間の次元以外にも、次元は存在しているのかもしれません。この考えを突き詰めていくと、いくつかのおもしろい見解に行き着きます。アインシュタインの一般相対性理論を例にとってみましょう。そこにもうひとつ次元を加えると、数式が導き出されます。そしてそれらの数式とは、そのままそっくり電磁波を説明する時に使う数式なのです! これをさらに紐解いていけば、100年後には物理学者たちの見解ではもっぱら宇宙は極小の紐で形成されていて、7つ、8つ、はたまた23もの新たな次元のもとに成り立っているかもしれません。 繰り返しますが、並行宇宙が存在しているという確固たる物理的証拠はありません。でも、可能性を追求していかないかぎりは、存在しているのかどうかも知ることもできません。