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【書評】バスク地方の政治的事情と美しい風景が詩的に重なって 『アコーディオン弾きの息子』

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婦人公論.jp

◆親友が遺した回想録をもとに、父と息子の物語を紡ぐ スペインのバスク地方で生まれ育ち、馬を飼育する牧場を営んでいた伯父のフアンを頼ってカリフォルニアに移住。1999年に50歳で亡くなった男性ダビが、母語であるバスク語で書き残した回想録。 重層的かつ詩的で見事な筆致 その死の1ヵ月前から牧場に滞在していた幼なじみにして作家のヨシェバは、ダビの妻メアリー・アンから「回想録は3部しかない。自分たち家族には理解できない言語で書いてあるこの本を読んで、価値があると思ったのなら、そのうちの1冊をあなたたちの故郷オババの図書館に寄贈してくれないか」と頼まれます。 実は自身も若い頃のことを小説にしたいと思っていたので、帰国後に親友の回想録を読み、メアリー・アンに「ダビの本は図書館に寄贈したけれど、自分はこの回想録にもとづいて新しい本を書きたいので許してくれないだろうか」と手紙を書くヨシェバ。こうして完成したのが『アコーディオン弾きの息子』──という設定になっているのが、ベルナルド・アチャガの同タイトルの小説です。 プロのアコーディオン弾きにしてオババの権力者の一人である父親が、スペイン内戦時にフランコ率いる反乱軍側につき、共和国政府軍側についた反ファシズムの村人を銃殺した一人なのではないかと苦しみ悩んだ思春期。父親の過去を正確に知り、嫌悪を覚え、バスク解放運動に身を投じていく青年期。 ダビの成長に伴って政治的な色合いを濃くしていく主旋律と、古き良き世界がいまだ残っているバスク地方の自然と社会の姿を託して描かれるオババの光景、友情や恋といった青春の輝きが、同じくらい大事なものとして描かれていく筆致が重層的かつ詩的で見事。素晴らしいにもほどがある熱烈推薦作です。 『アコーディオン弾きの息子』 著◎ベルナルド・アチャガ 訳◎金子奈美 新潮社 3000円

豊崎由美

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