ハリス副大統領が予想外に早く大統領候補者指名を固める
副大統領候補(ランニングメイト)に誰を指名するか
今後の選挙戦を左右するのが資金力だ。ハリス副大統領はバイデン大統領の選挙運動委員会が既に調達した資金を使うことができるとされる。7月20日に連邦選挙委員会に提出された書類によると、バイデン大統領、ハリス副大統領陣営の6月末時点での手元資金残高は9,600万ドル(約151億1600万円)で、トランプ氏、JD・バンス氏陣営の1億2,800万ドルを下回っている。 しかし、バイデン大統領の撤退表明から24時間のうちに、ハリス陣営と民主党全国委員会(DNC)および共同の資金調達委員会は、8,100万ドル(約127億円)もの資金を集めたという。 ハリス副大統領が、誰を副大統領候補に指名するかも、選挙戦に大きく影響する。共和党の大統領候補に正式指名されたトランプ氏は、39歳の若手のバンス氏を副大統領候補に指名したが、これは78歳と高年齢である自身との年齢バランスを考えたものだ(コラム「トランプ色が強いバンス氏が共和党副大統領候補に:外交政策ではトランプ以上に過激か」、2024年7月17日)。他方、ラストベルト(錆びた地域)の貧しい家庭の出身であるバンス氏の指名は、2016年の大統領選挙でトランプ氏の勝利を支えたラストベルトの白人労働者層の支持獲得を強く意識したものだ。 ハリス副大統領自身は、トランプ氏と比べて59歳という若さをアピールできる。さらに、女性、黒人、アジア系であることが、共に白人の男性である、トランプ氏、バンス氏との対抗軸となる。 仮にハリス副大統領が、ミシガン州のグレッチェン・ホイットマー知事を副大統領に指名すれば、正副候補共に女性となり、共和党候補に対して違いをアピールできるが、現状では、ホイットマー知事は副大統領職は望まないと発言しており、実現の可能性は高くないだろう。
ハリス副大統領は人口中絶など人権問題に強み
民主党大統領候補の指名に近づいているハリス副大統領は、ジャマイカ系黒人の父とインド系の母を持つ移民2世だ。カリフォルニア州バークレーで育ち、シングルマザーに育てられた。カリフォルニア大法科大学院修了後、検事として活動した。カリフォルニア州で初めての女性司法長官になったのち、2016年に上院議員に転じる。2020年の民主党大統領候補指名争いに挑戦し敗北したが、バイデン大統領によって副大統領に指名された。 検事時代から性的少数者(LGBTなど)の権利拡大に尽力した。また副大統領としては、女性の人工妊娠中絶の権利を訴えた。民主党内でも、この分野で大きな役割を果たしてきたと評価されている。アメリカの連邦最高裁判所が2022年6月24日に、「中絶は憲法で認められた女性の権利だ」とする49年前の判断を覆したことから、人口中絶問題は現在、民主、共和党間で大きな論戦の的となっており、大統領選挙でも争点の一つとなる。 ただし、人権分野以外でのハリス副大統領の実績は乏しい。外交や経済政策などでの手腕は未知数と言っても良いだろう。 ハリス副大統領は、大統領候補として予想外に順調なスタートを切ったと言えるが、11月の大統領選挙までの短期間で、大統領としての資質を国民に強くアピールすることが求められる。それができなければ、トランプ優位との見方は簡単には覆らないのではないか。 (参考資料) "Harris Glides Toward Nomination, Contest With Trump(ハリス氏、党候補指名獲得へ 代議員の過半数支持)", Wall Street Journal, July 23, 2024 "Harris Moves Fast to Win Support of Wealthy Democratic Donors(ハリス氏、素早い「次の一手」 大口献金者の支持固め) ", Wall Street Journal, July 22, 2024 "Kamala Harris Wins Endorsements as She Navigates Path With Little Precedent(ハリス氏が進む「ほぼ前例なき道」)", Wall Street Journal, July 21, 2024 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英