【国産時計のレガシー】1965年に誕生した“セイコーダイバー”の系譜を辿る
国産時計のレガシーと言える“セイコー ダイバー”は、1965年に初代モデルが発表された歴史あるモデルだ。この時計が生まれた背景には、前年の1964年に東京オリンピックが開催され、日本でもスポーツやレクリエーションに注目が集まり出したこともあって、野外でタフに使っても壊れない時計が求められていたという状況があった。 【画像:30万円アンダーでも狙える。“植村ダイバー”とも呼ばれた2ndモデル】
初代セイコー ダイバーは、ファンの間では“ファーストダイバー”と呼ばれており、当時の諏訪精工舎が手がけた国産初の本格的なダイバーズウオッチだった。リューズはネジ込み式ではなく二重パッキン、裏ブタはスクリューバック仕様。リューズガードはなく、薄めなベゼルには逆回転防止機能が付いていない。インデックスと針はダイバーズらしく視認性が高い形状が採用されており、特にインデックスは衝撃を受けても剥がれないエンボス加工で、夜光塗料も用いられていた。
当時の定価は1万3000円で、ダイバーズウオッチと言えばスイス製の高級モデルしか存在しなかった時代に、頑張れば手が届く高機能時計として庶民の人気を集めた。防水性能は150mで、翌66年の南極観測越冬隊に支給された実績もある。デザイン的にはかなり無骨で、現行ダイバーズのプロトタイプとも言えるようなルックスだが、それだけにタイムギアとしての重厚さを感じさせて、時計ファンの心をくすぐるのかもしれない。さらに諏訪精工舎では、67年に防水性に優れたワンピースケースを採用して“プロフェッショナル 300mダイバー”を発表。リューズガードはやはり採用されていなかったが、リューズを4時位置にセッティングすることで、操作性を向上させると同時に、デザインも垢抜けたものになった。ケースもボリュームアップしたことで、防水性能は倍の300mにアップしており、本格的なプロ用ダイバーズとして地位を確立した。 1970年には“セカンドダイバー”として知られる2代目モデルが登場。防水性能はファーストと同じく150mで、ベゼルも両回転タイプだが、独特のケースデザインや引っかけるタイプのロック機能を備えた4時位置のリューズはかなり特徴的だ。文字盤のデザインもより洗練されたものになり、現行のダイバーズウオッチにかなり近づいた仕様になっている。 セカンドダイバーは製造時期によって前期型と後期型に分類され、特に五大陸最高峰を制覇した冒険家の植村直己氏が愛用していたことで後期型が有名だが、市場では製造期間が短かかった前期型の方がレアな存在だ。いずれにせよダイバーズという特殊な用途の時計ゆえ、現在残っているものもハードに使い込まれた個体が多く、きれいな状態をキープしているものは市場でも高評価される。 以前はリーズナブルな価格で手に入れることもできたが、近年は世界中のマニアが注目していることで相場も上昇傾向にあり、ファーストの状態が良いモデルだと50~70万円台で取り引きされるまでになった。ファーストもセカンドもその後に何回か復刻されているが、やはりオリジナルの醸し出す雰囲気は格別だ。 購入時はやはりコンディションをよく見極めることが重要だ。それでも元の設計が堅牢なうえ、国産時計ということでパーツも比較的入手しやすく、メンテナンスに関してはあまり心配しなくても良いだろう。
文◎巽 英俊