異例のローマ皇帝マクリヌスとは何者だったのか、映画『グラディエーターII』で注目
北アフリカの無名の一族から古代ローマの最高権力者に、元老院の一族以外で初の皇帝
映画『グラディエーターII 英雄を呼ぶ声』で、デンゼル・ワシントンが演じる「マクリヌス」は、3世紀ローマの危険な王宮と闘技場で、権力への道を切り開いていく謎の奴隷商人だ。一方、同時代のローマ皇帝マルクス・オペッリウス・マクリヌスは、現在のアルジェリアで生まれた数少ないアフリカ出身の皇帝だった。 ギャラリー:人々を魅了する古代ローマの剣闘士、6つの真実 写真と絵22点 マクリヌスは低い身分からローマ帝国で最も権力のある男へと一気に駆け上がったが、その生涯は映画とは異なる。マクリヌスの急速な出世は古代ローマの多様性、そして、民族や出生地が権力への障壁にならないことを示している。異色のローマ皇帝であるマクリヌスの物語を紹介しよう。
アフリカ人であることを隠さなかった
西暦165年、マクリヌスはローマ属州マウレタニアの沿岸都市カエサリアで生まれた。カエサリアは裕福な首都で、同じくアフリカのローマ領にあったエジプトのアレクサンドリアやレプティス・マグナ(現在のリビア)のように繁栄していた。 ローマがカルタゴやエジプトを征服した結果、北アフリカはローマ帝国にしっかり組み込まれた。ローマのアフリカ人は帝国の果てまで旅することもあった。 例えば、英国ヨークに埋葬されていた古代ローマのエリート女性を調査したところ、本人または祖先の一人が北アフリカ出身だったことがわかった。この発見は、ローマ世界の多くの地域が互いに結び付き、多様性に富み、国際的だったことを示している。 実際、古代ローマのアフリカ人は奴隷労働者からローマ属州ブリタンニアの兵士、学者、実業家まで、ほぼすべての社会階級に属していた。193年には、リビア生まれのセプティミウス・セウェルスが、アフリカ出身者としては初めてのローマ皇帝になった。 古代ローマには現代のような人種差別は存在しなかったが、ローマ人も違いを意識し、固定観念があり、偏見を抱いていた。そして、文化的、民族的な集団は互いに異なり、それぞれ固有の特徴があると考えていた。 マクリヌスは、自分がアフリカ人であることを隠さなかった。古代の歴史家カッシウス・ディオによれば、マクリヌスはアフリカ人の慣習とされるピアスもしていた。 マクリヌスの家族は騎士の身分だったようだ。ディオは「無名」と表現し、平凡な地位にあったことを強調している。 ローマ帝国の鍵を握っていたのはユリウス氏族やクラウディウス氏族のような元老院議員の一族で、マクリヌスのような一族ではなかった。すべてのローマ皇帝は、生まれつきにしろ能力で成りあがるにしろ、これら名門の一員だった。それを変えたのがマクリヌスだ。