<パリ同時テロ>欧州全域が脅威に テロ対策としての異文化との共生
先進国でのテロは新たなステージへ
次に、今回の事件がもつ特徴を整理してみましょう。 今回の事件は、ボストン・マラソン連続爆破テロ事件(2013)のような、その国で長く暮らしていた市民がイスラム過激派に触発されて引き起こすタイプの、いわばアマチュアによる一匹狼型のいわゆる「ホーム・グロウン・テロ」ではありません。実行犯にフランス国籍の者が多かったとはいえ、その中にはシリア渡航歴のある者も含まれており、かなり高度に組織化された、いわばプロフェッショナルによるものです。 しかも、ボストンやマドリード、さらにロンドン地下鉄連続テロ事件(2005)などと異なり、爆弾が使用されただけではありません。一国の首都の各所がほぼ同時に武装グループに襲撃され、銃撃戦が展開されたことは、大きなインパクトになりました。そのうえ、自爆テロが発生したのは、フランスでは初めてのことです。 戦闘経験を積んだ者が綿密な計画のもとに、しかも新聞社シャルリ・エブド襲撃事件(2015)と異なり、標的を特定せず、ほぼ無差別のテロ攻撃を行うことは、いつ隣人がテロリストになるか分からないホーム・グロウン・テロとはまた異なる、大きな脅威といえます。オランド大統領が非常事態を宣言し、国境を封鎖したり、各種のイベントを中止させたりしたことは、その影響の大きさを物語ります。今回の事件は、先進国を標的にしたテロが新たなステージに入ったことを示すといえるでしょう。
ベルギーで準備しフランスで実行
とりわけ、ヨーロッパにとって事態は深刻です。15日のフランスとベルギーの当局による発表によると、今回の事件は隣国ベルギーで準備され、実行犯グループはフランス国内の仲間と連絡を取り合って実行に及んだといいます。 ヨーロッパ内部では人の移動が基本的に自由です。フランス当局はIS空爆開始の前後から国内の警備を強化してきました。しかし、警備が厳重な標的の大国ではなく、軍事力や警察力に限界のある近隣の小国がテロリストの拠点になることは、中東などでは珍しくありません。これに照らすと、ヨーロッパ全域がテロへの警戒を強めざるを得ない状況になったといえます。 それに加えて、テロ活動を行うのはISだけではありません。新聞社シャルリ・エブド襲撃事件を実行したのは「アラビア半島のアルカイダ」で、ISが袂を分かったアルカイダの系列に属します。 現代のイスラム過激派にとって、先進国をはじめとする海外でのテロは、自らの組織の宣伝材料でもあります。人目を引きやすい場所で、関心を集める結果を残すことは、戦闘員をリクルートし、湾岸諸国などの富裕層の支持者から資金を調達する手段でもあるのです。 いわば「目立ったもの勝ち」という状況の中で、ISがパリで大規模なテロ事件を引き起こしたことは、その求心力が低下しているとはいえ、ライバル関係にあるアルカイダにとって、「次の一手」を模索させる契機になり得ます。米国、ロシア、湾岸諸国、トルコと同様、シリアで空爆を行っているヨーロッパ各国は、IS以外の脅威にもさらされているといえます。