ビットコイン、インフレ、予想ゲーム【オピニオン】
米労働統計局は12日、最新の月間消費者物価指数(CPI)を発表した。マクロ経済の状態に関して言えば、データは見込みを裏切るようなものではなかった。 インフレ率は12月、総合CPIの指標で月間0.5%上昇と、11月の0.8%と比べると伸び率は低下。前月比での変化の主な要因は、12月におけるエネルギー価格の低下である。特に冬季の暖房に使われる燃料油の価格は、前月比で2.4%値下がりしていた。 誤解しないで欲しいのだが、12月の数字はそれでも異常なほど高いもので、それだけなら心配になるような数字だ。年間ベースで言えば、前年同月比のインフレ率は7%と、1982年以来最も高い年間インフレ率となった。 しかし、CPIの伸びが前月比で低下したことは、より正常な範囲へと向かっていることを意味していることを願いたい。「より正常」というのは、2022年のインフレ率が3~4%になるということで、新型コロナウイルスのパンデミック以前には何年も維持、あるいはそれ以下となっていた、FRB(米連邦準備制度理事会)が設定した2%のインフレ目標のことではない。 今回発表された新しいCPIの数字は、ビットコイン(BTC)に顕著な影響を与えた。発表を受けて約1.6%値上がりし、その後小幅に値下がりしたのだ。一方、S&P 500やダウ・ジョーンズ工業株価平均に対する影響はより穏やかなもので、小幅に値上がりしたが、すでにおおむね元に戻っている。 これらの数字は、興味深い対照をなしている。素人目には、ビットコインはインフレヘッジであるという主張を強化しているように見えるかもしれないが、株価の動きはより理解しづらいだろう。今回のCPIの数字は、それ自体は非常に高いものであり、別の年であれば、FRBによる金利引き上げ懸念によって、株価は下落したかもしれないのだ。
予想の与える影響
株価が下落しなかった理由はあまりにシンプルなもので、市場に不慣れな人なら簡単に見逃してしまうだろう。予想が果たす役割だ。 株式市場を支配するプロのトレーダーたちはおおむね、発表当日にCPIの数字に反応して必死にトレーディングしている訳ではない。そうではなく、数週間にわたってCPIの数字を予測しようと務め、実際の数字が発表される前に、その予測に基づいてトレーディングしているのだ。 同じように、FRBはすでに、今年金利を引き上げ、量的緩和政策を縮小する計画を発表しており、金融引き締めが行われ、株価に打撃を与えるだろう。 CPIの実際の数字は、資金融情報専門紙『バロンズ』に掲載されたウォール街での「コンセンサス見込み」の0.4%上昇よりもわずかに高いものであった。つまり、単純化して言うと、CPIの数字は、発表前のトレーディングにすでに「織り込み済み」であったために、発表を受けても株価はそれほど動かなかったのだ。 だからこそ、一般的に安価な資本により依存したテックを始めとする「成長」株が、数カ月も低迷しているのだ。発表されたインフレ率がコンセンサスの見込みよりもはるかに上、または下だったとしたら、株価は大きく値動きしたかもしれない。 このような予想がどのように機能するかを理解することは、資産市場を分析する上で鍵となる。CPIの話題において突然その重要性を増しているが、予想は長年にわたって、アナリストによる上場企業の四半期収益予想という形で、株式市場で中心的役割を果たしてきた。 奇妙なことに、金融メディアに関わって約10年になる私にもいまだにその理由は分からないが、ビジネス系メディアは、様々な「コンセンサス予想」の出典を明記する習慣がない。そのために、適当にでっち上げたように見えてしまうのだ。 しかしコンセンサス予想は通常、アナリストへの調査結果、あるいは彼らが発表した予想の平均をもとにしたもので、昔ながらのブルームバーグターミナルで最も簡単に見つけることのできるデータの1つだ。 (この点で暗号資産は、特別である。プロによる予想が非常に重要性を持つほどに、定期的な報告の仕組みが存在しないからだ。しかし、コインベースなど、暗号資産関連の株式は、同じようなダイナミクスに影響を受ける)