【都市対抗2023】ヤマハ(5年連続44回目・浜松市/東海第2代表) 33年ぶりの「新たな景色」へ【前編】
過去3度の都市対抗制覇。最後に黒獅子旗を手にしたのは1990年である。東海地区の名門は5年連続の大舞台へ、万全の準備を進めている。 取材・文=杉園昌之 写真=矢野寿明
6月下旬の梅雨晴れの朝。天竜川の大きな堤防のほとりにある磐田市豊岡球場は、活気にあふれていた。ヤマハは5年連続出場の都市対抗に向け、ち密な戦術の確認に余念がない。今シーズンは伝統として引き継がれる強力打線だけではなく、足と小技を絡めた攻撃にも力を入れている。就任6年目の室田信正監督(名城大)は、スローガン『覚悟~新たな景色へ~』の言葉を噛み締める。 「2年連続で都市対抗は、思うように点を取れずに初戦敗退(21年は0点、22年は1点)。大事なところで点が入らずに結果が出ていないなか、『覚悟』を決めて、何かを変えないといけないと思いました」
指揮官はコーチ陣の刷新を決断した。ヤマハ打線の土台を築いた元ヤクルト・佐藤二朗コーチが勇退し、今季からは嶋岡孝太コーチ(立命大)に任せている。新任の申原直樹コーチ(中大)は、主に新人の採用を担う。新たな体制で、オープン戦から接戦を制することを意識してきた。 「今年は競り勝っていこうと選手に話しています。昨年まであまり見られなかったバントや盗塁も使えるようにと。都市対抗を見据え、大差にならない前提で練習してきました」
タイブレークで無類の強さ
打力強化の成果は、都市対抗東海地区二次予選で早速、結果として表れている。西濃運輸との第1代表決定トーナメント準決勝では1対1のまま9回を終えた。タイブレークとなった10回表を守護神・波多野陽介(東北福祉大)がゼロに抑えると、その裏、二死一、二塁から網谷圭将(千葉英和高)がサヨナラ打。トヨタ自動車との第1代表決定戦を落として、中1日で迎えた王子との第2代表決定戦も5対5でタイブレークへ。9回から救援した波多野が10回表を無失点に抑え、その裏、一死満塁から永濱晃汰(東北福祉大)のサヨナラ犠飛で、東京ドーム切符をつかんだ。立役者となった永濱は、打線のカギを握る一人。室田監督は勝負どころの働きに、目を細める。 「後ろの打順で彼が打つと、一番の秋利雄佑(カリフォルニア州立大)につながり、点になることが多いんです。『表のキーマン』は三番の矢幡勇人(専大)、四番の網谷になるのですが、『裏のキーマン』は永濱です」 競り負けなくなってきたチームの変化は、主将・川邉健司(明大)も感じていた。全体を見渡す入社12年目、33歳のベテラン捕手は、成長しているのは攻撃だけではないと言う。 「接戦ではバッテリーを中心とした守備も大事。今季は緊張感の続く試合でも、最後まで粘り強く守れるようになってきたと思います」 二次予選で先発マスクをかぶったのは、入社4年目の大本拓海(立命大)。経験豊富な川邉は主に終盤から出場し、試合を締める役割を託されてきた。タイブレークとなった2試合でも、冷静沈着にリードした。 「周囲からはしんどい場面だったと言われますが、難しいことは考えずにシンプルにアウトを一つずつ取っていくだけです。誰がマスクをかぶっても、チーム力が落ちてはいけない」 場数を踏んでいるベテランの力は、いまもチームの貴重な戦力となっている。世代交代の波を感じながらも、若手に簡単に負けるつもりはない。 「僕が一番だという自負はあります。社会人野球では年長者扱いをされますが、プロを見れば、一線で活躍している選手が何人もいますから」