部活の顧問はホテルの前で「断るんか」、口止めの“わいせつ写真”…スクールセクハラ被害の悲痛な叫び
「スクールセクハラ」と総称される、教師による児童生徒へのセクシュアル・ハラスメント。スクールセクハラの被害者の苦しみは、被害の渦中にある時だけでなく、成人してからも長く続く。ジャーナリストの秋山千佳さんが「文藝春秋」2019年9月号で取材した「いま、あなたの娘と息子が危ない! スクールセクハラ『犠牲者』たちの告発」を全文公開する。※肩書きや年齢などは掲載時のまま。(全2回の1回目/ #2 へ続く) 【写真】この記事の写真を見る(5枚) ◆ ◆ ◆ ブラインドを下ろしたビルの一室では、窓の外で降りだした雨の音も聴こえなかった。 テーブルを挟んで向き合った彼女は、高校生だったおよそ10年前、信頼していた教師によって降りかかった悪夢をぽつりぽつりと語りだした。 「恋愛経験も性的な知識もない子どもだったので、先生から大人の世界を急に持ち込まれてわけがわからなかったし、はっきり悪事として捉えられなかったというか……。今振り返れば、なぜ最初の段階で親にも学校にも言えなかったのかと思うんですけど、先生をかばいたくなる生徒の思いが悪用されたんですかね」 伏し目がちに回想するのは、田村千尋さん(仮名、28)。札幌市の私立高校に在学中の2年時から3年時にかけて、当時30代後半の男性美術教師によって、下半身を触られるなどの性被害を受け続けた。「口止め」としてわいせつな写真も撮られている。 その教師が接近してきたのは、1年秋のこと。校内行事の準備で下校が遅くなり、同級生の女子たちと学校を出ようとすると、決まって教師と鉢合わせた。暗いから車で送っていくという教師の申し出に皆で乗ることが重なり、時にはカフェレストランで食事をごちそうになることもあった。そうしたことが毎週のようにあり、女子生徒の下校を待ち構えていた可能性もあるが、当時の田村さんは「優しくて面白い先生だな」と疑いを持たなかった。
2年になり、一人で下校しようとしていた田村さんは玄関先で教師に呼び止められ、いつものように警戒せず車に乗り込んだ。道中「ファミレスで食事していきますか」と言われて店に寄り、食事を終えると「こんな美術展が開かれているから休みの日に一緒に観に行きませんか」と誘われ、美術が好きだった彼女は無邪気に喜んだ。今なら40近いおじさんが高校生を誘うなんておかしいと思えるんですが……と彼女は言う。 「うちの父親は仕事人間で気難しく、すぐ手が出る人で、それを母が泣いて止めてくれるものの、何となく家に帰りたくない気持ちがありました。一方で先生と話していると楽しいし、恥ずかしい話ですが、森のなかのメルヘンチックなお屋敷で先生とのんびり暮らせたらいいのになんて子どもじみた空想をしたこともあります。要するに現実的な恋ではないのですが、漠然と憧れを持っていた先生とお出かけできるのは嬉しかったんです」