再生医療の進歩にも繋がる、独自の人工骨開発技術がある vol.2
再生医療の進歩にも繋がる、独自の人工骨開発技術がある vol.2 相澤 守(明治大学 理工学部 教授) 近年、人工骨の研究が注目され、期待されています。背景には、日本が超高齢社会に突入していることがあります。加齢とともにもろくなる骨をサポートしたり、再生する技術は、健康寿命の延伸に大きく関わります。この研究に、独自の取り組みでアプローチしている研究室が本学にあります。 ◇理想の人工骨は超高齢社会に必要不可欠なもの 私たちが、患者さんの負担をできるだけ低くする人工骨の治療に取り組んでいる背景には、日本が超高齢社会であることがあります。 日本が長寿社会であるのは喜ばしいことですが、大切なのは健康寿命を延ばすことです。人工骨は、そのための策のひとつであると考えています。 例えば、加齢にともなって、「ロコモティブシンドローム」と呼ばれる運動器疾患が発症しやすくなります。要は、身体になんらかの障害が起こり、動きにくくなってしまうわけです。最悪の場合、いわゆる寝たきりになってしまうこともあります。 その要因のひとつが、加齢にともなって骨の代謝のリズムが崩れ、結果として骨がもろくなってしまうことです。骨が痛んだり、簡単なことで骨折してしまうと、生活を楽しむこともできなくなります。このロコモティブシンドロームの解決策のひとつになるのが人工骨なのです。 ただ、先に述べたように、現在の人工骨の治療は自家骨移植が中心です。それでは、高齢者ほど、身体に対する負担が大きくなってしまうのです。 骨は常に代謝していますが、新しく骨をつくっている細胞を「骨芽細胞」と言います。この骨芽細胞によって骨がつくられることを「骨伝導」と言います。ところが、骨芽細胞がないところでも骨がつくられる現象があります。それを「骨誘導」と言います。 実は、自家骨移植では、この骨誘導が発現するのです。すると、当然、治療効果が高まることになります。だから、ゴールデンスタンダードと呼ばれるほど一般的な治療法になっているのです。 それに対して、アパタイトでは、骨伝導は起こりますが、骨誘導がほとんど起こりません。 しかし、アパタイトをベースにしながら、骨誘導を発現させる人工骨をつくることは不可能ではないと、私たちは考えています。 例えば、素材を多孔体にすることで、骨が孔に入ってきて回復が早くなるのですが、その孔の大きさによって、骨誘導が発現しやすくなることがわかっています。そこで、どのくらいの大きさにコントロールすると良いのかを、私たちは研究しています。 化学の使命の一つは、「ヒトの役に立つモノを創る」ことであると考えています。 その意味で、自家骨移植を超える低侵襲性で、骨誘導プラス生体吸収置換性をもち、さらに、抗菌性や不感染性などの機能をもった人工骨をつくることが、私たちの使命であり、それが私たちの研究のモチベーションになっています。 ※取材日:2019年8月 次回:人工骨の開発技術が再生医療の進歩に繋がる(12月8日12時公開予定)
相澤 守(明治大学 理工学部 教授)