鉄道の使命、やはり「利益追求」だけではない? 英国「再国有化」が示す民営化の限界とは
鉄道民営化の最大の問題は利益の流出
民営化のメリットは、競争を意識した ・サービス向上 ・政治の不介入 ・効率的な運営 ・人員削減 などがあげられる。英国国鉄の解体では、さらに ・労働組合の弱体化 ・株式売却による国庫の収益 が重要視されていた。これにより、英国国鉄がいくつもの会社に分割された結果、組合組織が瓦解(がかい)し、職員一丸となって 「鉄路を守る文化」 が失われるどころか、技術継承すらままならなくなった。さらには、本来ならあまりもうからないレール・トラック社まで国庫の収益のために株式を売却され、安全より利潤追求にかじを取ることとなる。 英国の鉄道国営化に関する記事をいくつか読んでいると、鉄道民営化の最大の問題は、 「鉄道収入で得られた利益が、鉄道利用者や線路の維持、設備投資に還元されるのではなく株主へ流出すること」 との指摘があった。 ・運行会社 ・車両リース会社 ・インフラ会社 は、全く別個の会社であり、運行会社がいくらもうけようと、車両リース会社、インフラ会社には還元されない。このため、車両リース会社、インフラ会社は、設備を維持するにしても、設備投資をするにしても税金の投入が必要となった。 さらには、利用客が少ない路線の場合、運行会社は税金を投入して補填されている。つまり、多額の税金を投入されながら、個々の会社は利益確保に走り株主に配当する矛盾。だったら 「1社にまとめて国営でいいのでは」 となるのも無理もない。
民営化の限界
英国の国鉄鉄道民営化という壮大な社会実験の結果、再び国有化に向かっているのは 「民営化が失敗だった」 といってよいだろう。もちろん、失敗から学べることがある。鉄道収入で得られた利益の株主への流出に気付けたこともそうであるが、クリスチャンウルマー「折れたレール イギリス国鉄民営化の失敗」(坂本憲一監訳、ウェッジ)に特徴的な文章がある。 「鉄道事業に携わる企業はみな、自己のわずかな職域内で最大限の利益を上げようとする。つまり、(中略)鉄道事業を広く社会的見地から捉えようとしないのだ」 と。 日本の場合、英国と異なり上下をまとめて担うJR方式であり単純に比較はできないという意見がある。そのとおりだろう。しかし、 ・利益重視の株主の存在 ・利益の株主への流出 ・自社だけ最大限利益を上げようとする姿勢 は、JR方式であっても共通しているといえよう。 ・赤字ローカル線を廃止したり ・JR各社が独自のICカードを展開したり するのは自然の流れだった。ただ、「鉄道事業を広く社会的見地から捉えようとしない」という反省については、鉄道を社会的見地で捉えるのは本来ならば 「国の仕事」 であり、民営化したJR各社にそれを求めるのは無理がある。やはり、鉄道を 「もうけの手段」 ではなくネットワークという面で維持し続けるのは、民間企業では限界があるのではないだろうか。
山本哲也(交通ライター)