鉄道の使命、やはり「利益追求」だけではない? 英国「再国有化」が示す民営化の限界とは
再び鉄道国有化の道を歩み始めた英国
英国が、再び鉄道を国有化に戻す道を歩んでいる――。 2018年に英国の主要幹線のひとつである東海岸本線を、2020年には北イングランド北部鉄道を、そして2021年にはロンドン南東部の鉄道の運行を国の管理下に戻した。 【画像】「すげぇぇぇぇ!」これが鉄道業界の「年収ランキング」です! 画像で見る(10枚) 英国の国鉄民営化は、いわゆる上下分離方式(運行と施設の管理を分ける方式)であり、地上設備や信号設備を1994年設立のレール・トラック社が引き継ぎ、車両は車両リース会社が所有し、フランチャイズを与えられた20社を超える民間会社が列車の運行を担っていた。 現在、鉄道の国有化に関する法案は下院を通過し、上院で審議されている。法が成立すると、第1ステップで民間鉄道事業者とのフランチャイズ契約終了後、公的機関が列車の運行を引き継ぎ、第2ステップで国有企業グレート・ブリティッシュ・レイルウェイズが、列車運行と現在インフラ担当している公的機関のネットワーク・レールを引き継ぐという。つまり、英国国鉄の民営化は 「約30年で限界」 を迎え、逆のプロセスを歩んでいることとなる。
民営化以降英国の鉄道がたどった経緯
ここで、今一度英国国鉄民営化についておさらいしてみよう。 元々英国は、1980年代でもほとんどの企業が公営だった。これは、欧州諸国が第2次世界大戦後に重要な産業の国有化を進めたことに起因している。1981年時点において、 「国内総生産(GDP)の約30%」 を公共部門が占めているぐらいだった。1979年に誕生した保守党のサッチャー政権が、次から次へと民営化を進めていった。ただ、英国国鉄が民営化されたのは、鉄道の民営化に反対していたサッチャー政権ではなく、その後のメージャー政権(保守党)になってからである。 英国国鉄の民営化は、仕組みとして欠陥が多かったといっていい。例えば、民間の列車運行会社は車両や線路設備を持たなかったため、車両リース会社にリース料を、レール・トラック社に使用料を支払って運行する仕組みだった。旅客需要が伸びた際も、車両リース会社やレール・トラック社が設備投資をしなかったため、対処しきれなかったこともある。 また、インフラ部分を担うレール・トラック社は技術部門を持たず、さらに設備保守会社と工事会社に分割された。レール・トラック社による過度なコスト削減要求と、設備保守会社、工事会社とのいびつな関係によりハットフィールド脱線事故が発生し、民営化の欠陥が露呈したといえる。その後、レール・トラック社は破綻し、公的機関のネットワーク・レールがインフラ部門を担うこととなった。