「小さい頃からよく胃が痛くなる人」は要注意…胃がんリスクも【医師が解説】
小さい頃から頻繁に胃が痛くなる…そんな人は、もしかしたら「ピロリ菌」に感染しているのかもしれません。上水道が整備されて以降は、世代が若くなるにつれて感染者が減っており、ピロリ菌と聞いてもピンとこない人もいるでしょう。マールクリニック横須賀院長・水野靖大医師が、深刻な症状・病気を引き起こさないために知っておきたい、ピロリ菌の知識を解説します。
激しい胃痛と吐血を繰り返す中学生…元凶は“ピロリ菌”
時折、「小学生ぐらいのときから頻繁に胃が痛くなる」という方がいます。私のクリニックにもそのような患者さんがよく来られます。 だいぶん前のことになりますが、こんなことがありました。ある男性の患者さんが、「自分のことではないのですが…」と話し出されました。 その患者さんの娘さんは小さいときからよく胃が痛くなり、中学生になってからは吐血して救急車で運ばれたことも何度かあったそうです。搬送先の病院での胃カメラ検査の結果、胃かいようが血管を破って出血しているとの診断でした。止血処置をしてもらい胃酸を抑える薬をもらって退院するのですが、しばらくするとまた同じことが起こるそうです。 そのお父さんは本当に困っておられ、こんなことが何度もあると娘が可哀想だから何とかならないだろうかという相談でした。 もしかしたらピロリ菌かもと、娘さんに受診してもらいピロリ菌チェックをしたところ、結果は陽性。もう中学生でしたので大人と同じ量の抗生剤と制酸剤を使って除菌したところ除菌は成功し、それまでの胃の痛みは嘘のようになくなり、もう吐血することもなくなりました。今ではもう社会人として元気に活躍しています。ここまで、激しい症状の症例は珍しいですが、幼少期からの胃痛にはピロリ菌が関わっていることがあります。
そもそも「ピロリ菌」とは?
では、このピロリ菌とは何なのでしょうか? 正式名称はヘリコバクター・ピロリという細菌で、今から約40年前にオーストラリアのウォーレンとマーシャルという医師が胃炎患者の胃の中から発見しました。当時は、強い酸性環境の胃の中に住める菌などいないと信じられており、誰も彼らの発見を信じませんでした。そこで、マーシャル自身がピロリ菌を飲んで急性胃炎にかかるという実証実験を行なって証明したというエピソードがあります。 ■現代の生活ではほとんど感染しないが… この菌はおおよそ5歳までの免疫が弱く、胃酸の分泌も不十分な時期に感染します。それ以降では、マーシャルのように故意にピロリ菌を飲まない限り、通常、日本の生活ではほとんど感染しません。主な感染経路は、以前は井戸水を飲むことによる経口感染でしたが、上水道が整備された現代においては、幼少期に同居した家人からの経口感染です。 ■日本人の「胃がん」のほとんどにピロリ菌が関与 ピロリ菌に感染すると数週間から数ヵ月で胃炎を発症し、その後、萎縮性胃炎を引き起こします。この胃炎や萎縮性胃炎は自覚症状がある人とない人がいるのですが、自覚の有無に関わらず、その後、胃・十二指腸かいようや胃がんを引き起こしていきます。ピロリ菌を放置していた場合、男女差はありますが(男性の方が胃がんになりやすいです)、10-15%の可能性で胃がんを発症します。また、逆に日本の胃がんのほとんどはピロリ菌が関係していることが分かっています。