「国内が暗いのは経済界や国民のせい」ショルツ首相のもとで没落の一途をたどる「ドイツの不幸」
「最後の抗争」の内幕
11月1日、自民党の党首で、財相でもあったリントナー氏が、犬猿の仲のショルツ首相に18ページにおよぶ独自の経済再生プランを提出し、その結果、冒頭に記した通り、6日夜にはショルツ首相がリントナー氏を解任。以来ドイツは過半数割れの少数内閣となっている。 解任直後に行われたショルツ氏の声明は、リントナー氏についての罵詈雑言に等しく、いくら何でも、これは首相の品位も政府の尊厳も傷つけるものだという非難の声が内外から上がった。ショルツ氏の激怒の理由は、この「リントナー・ペーパー」が実に的を射ていたものだったからだろう。 ただ、リントナー氏の不幸は、メディアの援助が得られないこと。ドイツの主要メディアは政府の応援団と化してしまっており、中でも公共メディアには緑の党のシンパが圧倒的に多い。だから、緑の党の宿敵であるリントナー氏が公平に扱われることは、ほぼあり得ない。ドイツメディアはかなり偏向しているのである。 ちなみに、社民党と自民党の最後の抗争は、ショルツ首相が借金枠を増やせと迫ったのに対し、リントナー氏がこれ以上の借金はできないとしたこと。そしてもう一つは、リントナー氏が原発の再稼働を迫ったことだったと言われる。 リントナー氏が国債発行を拒んだ理由は、そのお金が、すでに底なしとなっている難民政策やエネルギー政策に注ぎ込まれることを危惧してのことだったが、ショルツ氏はそれを、「リントナーのせいで年金や福祉が削られる」と主張。そして、メディアが案の定、ショルツ氏の主張をそのまま報道した。
政府とメディアが結託
さて、公共第2放送は現在、2月末に行われると思われる(まだ確定ではない)総選挙に向かって、緑の党のハーベックこそが、ダメになったドイツ国の救済者であるという、信じられないバイアス報道を開始した。そういえば、21年の総選挙前にも同局は、緑の党のベアボック氏(現外相)を、あたかもジャンヌ・ダルクのように熱烈賛美していた。 公共の電波と、国民が負担している受信料を使って、緑の党の選挙運動まがいの報道が行われているのは、どう見てもおかしい。AfD(ドイツのための選択肢)が公共放送の受信料廃止を公約に盛り込んでいるのも納得できる。「確定申告の際、受信料を緑の党への寄付として申告してもよいか?」と冗談を言った批評家もいた。 ただ、実際問題として、この3年でドイツ経済をボロボロにした張本人がハーベック氏であることはすでに周知の事実なので、彼が英雄であるかのような“報道”を皆がおいそれと信じるとは思えないが、しかし、一方で、メディアは第4の権力とも言われているし、残念ながら国民の記憶力も、「物忘れのオラフ」と似たり寄ったり。 それにしても、政府とメディアが結託している国が、果たして民主主義国家と言えるのだろうかというのが、現在、私が抱いている素朴な、しかし大きな疑問である。 【詳しくはこちら】ドイツは“もうダメ”かもしれない…既存政党への不満が高まる中、権力闘争に明け暮れるかつての“優秀な産業国”の惨状
川口 マーン 惠美(作家)