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コロナ禍の事業承継、「中小企業は生産性が低いから潰れていい」論に負けない動きを

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税理士ドットコム

東京商工リサーチの調べによると、5月13日時点の新型コロナ関連の経営破たんは、2月には2件、3月には23件、4月には84件と急増しています。5月に入ってからは、既に34件発生し、累計で143件となっています(負債1,000万円以上の法的整理と私的整理が対象)。この数字には自主廃業の数は含まれていないので、実態としてはもっと深刻な状況と言えるでしょう。 家賃や人件費といった固定費の負担が重く、国の支援が十分でないことから、体力の無い中小零細企業は資金繰りの目処が立たず、倒産や自主廃業に追い込まれていると考えられます。また、高齢の経営者の場合、後継者がいないため、これを機会に廃業しようという動きに繋がっています。 長年親しまれてきた味やすぐれたノウハウが失われていくことは非常に悲しいことですし、日本にとって大きな損失です。後継者がいない経営者は、「廃業しかない」と考えがちですが、廃業を避ける方法はいろいろあります。そこで、今回は、事業承継の国の支援策について紹介したいと思います。(ライター・メタルスライム) ●誰も後継者がいない場合、M&Aも視野に 事業承継をするための方法としては、①親族への承継、②親族以外への承継、③M&Aがあります。 ①親族への承継 かつての日本では、親から子へ事業を承継する方法が一般的でした。しかし、今は、個人主義が浸透してきたため、子や親族が「後を継ぎたい」と言ってこない限り、事業承継は難しくなってきています。ただ、廃業してしまっては、後で「継ぎたかった」と言われても遅いので、廃業する前に、とりあえず継ぐ気があるのかどうか聞いてみても良いのではないでしょうか。 ②親族以外への承継 親族への承継が難しい場合、会社内部の役員や従業員などに事業を承継することが考えられます。会社内部の人間であれば、仕事の内容を把握しているので事業の承継もスムーズに進むというメリットがあります。ただ、経営に意欲がない人もいるので、人選が難しいという問題があります。また、会社内部以外でも同業者や知り合いで適任者がいれば事業をする気があるか打診してみるということも考えられます。 ③M&A M&Aは、親族、役職員、知人に後継者となるべき人がいない場合に取るべき最後の手段です。企業を買ってくれる人がいれば、従業員の雇用を確保し、事業を継続することができます。株式会社の経営者にとっては、株式を譲渡することで、まとまったお金が手に入るというのも魅力となります。M&Aに応じてくれる相手は、金融機関、M&A仲介業者、商工会議所などに紹介してもらうことができます。 ●中小企業は統廃合させるべきなのか 新型コロナの影響で飲食店や宿泊業での苦境が伝えられていますが、そんな中、東洋経済の記事に「コロナで露呈した『日本経済の脆弱性』の根因」というのがあります。著者は、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせたデービッド・アトキンソン氏です。 この記事によると、小さい企業ほどテレワークが導入されておらず、生産性が低いと指摘しています。その理由は、従業員が少なく、分業ができないので、専門性が高まらず、機械化もなかなか進まないからだとしています。さらに、日本企業の99.7%は中小企業のため、日本の生産性が低いとも言っています。 その上で、中小企業が多いことは弊害が多すぎるから、統合・合併を促進し、企業規模を拡大させる政策に舵を切る必要があると主張しています。成長しない中小企業は「国の宝」どころか、負担でしかなく、大企業・中堅企業こそ「国の宝」と言い切っています。 アトキンソン氏に言われなくても、経済学的には「規模の経済」の理論から言って大きい方が、経済効率が高いのは当然のことです。しかし、だからと言って中小企業が負担であり、生産性が低いのは中小企業が多いからだとする意見には賛同しかねます。 企業の成長サイクルは、幼年期、成長期、成熟期、衰退期に分類され、大企業は成熟期または衰退期にあると言われています。特に衰退期にある企業は、ベンチャースピリットを持った人材がおらず、組織が肥大化することによって意思決定が遅く、リスクをとった経営ができなくなります。いわゆる「大企業病」に陥っている可能性が高いわけです。 今では世界的企業に成長した「GAFA」も、中小企業だった創業時から輝きを放っていました。中小企業のもつ機動性や革新的なアイデアが今では世界を席巻しているわけです。人間の細胞が常に生まれ変わるように企業も次々とベンチャー企業が生まれなければ社会は活性化しません。成熟期と衰退期にある大企業ばかりが残り、幼年期と成長期にある中小企業がなくなることは健全ではありません。 そのため、ベンチャー企業や中小企業に対しては、ある程度国がサポートしていくことが必要です。できるだけ成長期や成熟期に移れるようM&Aや事業承継についても支援していくことが求められます。 もっとも、アメリカでは、いいアイデアであれば、中小企業でも積極的に取り入れてもらえますが、日本では資本金の額が少なかったり、実績が無かったりすると、話すら聞いてもらえないということがあるため、成長するのが難しいという側面があることは日本の課題と言えます。 ●税制や金融支援など、国の支援策 それでは、日本では、中小企業の事業承継についてどのような支援がなされているのでしょうか。 (1)経営承継円滑化法による支援 ①事業承継税制 後継者が非上場会社の株式や事業用資産を先代経営者等から贈与または相続により取得した場合に、都道府県知事の認定を受ければ、贈与税や相続税が猶予または免除されるというものです。これにより、税金を気にせず事業承継のための資産の移転が可能になります。 ②金融支援 事業承継に必要とする資金の融資を受けることができます。後継者が、この融資を利用して株式や事業用資産を買い取ることができるようになります。また、信用保証協会の通常の保証枠の他に別枠が用意されています。普通保険の場合2億円が限度のところ、別枠で2億円の限度額が認められるので、合計4億円まで保証を受けることができます。 ③遺留分に関する民法の特例 遺留分とは、一定の相続人に認められた最低限の取り分のことです。これまでは株式や事業用財産を後継者に生前贈与や相続させた場合、遺留分権利者が遺留分相当額の金銭を要求する可能性があったため、うまく事業承継ができないという問題がありました。 そこで、後継者が、遺留分権利者全員との合意及び所要の手続を経た場合、株式と事業用資産については遺留分を主張できないという民法の特例があります。この特例を利用することによって、遺留分を気にせず事業を承継することができるようになります。 (2)その他の支援 ①令和元年度補正予算「事業承継トライアル実証事業」(公募期限:2020年5月29日) 後継者がいない中小企業を対象に、後継者を公募し、マッチングを行うと共に、後継者教育の支援を行うというものです。 ②令和元年度補正予算「事業承継補助金」(公募期限:2020年5月29日) 事業承継、事業再編・事業統合を契機として経営革新や事業転換を行う中小企業者などに対して、その新たな取り組みに要する経費の一部を補助するものです。 ③事業引継ぎ支援センター 事業引継ぎ支援センターは、国が第三者への事業承継を支援する機関として創設したものです。事業承継問題についての相談、M&Aの実行支援を行っています。事業引継ぎ支援センターは、全国47都道府県に開設されていますので、最寄りの事業引継センターでM&Aについて相談することができます。 ●後継者がいないからとあきらめないで 事業承継の問題は、後継者争いや従業員が不安になるなどデリケートな側面があるため、どうしても経営者が一人で抱え込むことが多くなります。しかし、時間はあっという間に過ぎていくため、十分な対策が取れずに廃業に追い込まれるということにもなりかねません。 後継者候補がいるのであれば、株式を移転したり、教育をしたりと時間が掛かります。また、後継者候補がいないのであれば、M&Aをするために第三者を探す必要があります。いずれにせよ、ある程度の時間が必要になります。 売上が伸び悩み、事業が時代のニーズとマッチしなくなったという場合であれば、廃業という選択もやむを得ないかもしれませんが、そうでなければ、後継者がいないからとあきらめる必要はありません。これまで築いてきた事業を消滅させてしまうのは非常にもったいないことです。今回紹介した国の制度なども活用して、事業を存続できないか検討してみてはいかがでしょうか。

弁護士ドットコムニュース編集部

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