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落語でも音響のサゲっぱなしはNG(立川吉笑)

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NIKKEI STYLE

ようやく梅雨が明けたと思いきや、今度は日差しが強すぎて参っている。お天道様はもう少し良いあんばいに調整してくれないものかね。 相変わらずのコロナ禍で、落語会は感染予防に努めながら通常の半数くらいに絞った客席数で公演を開催している。客席数が半分になるということは、当然ながら入場料の売り上げも半分になる。そうなると会場費を支払うのが精いっぱいなので、会の模様を収録・配信して売り上げを補填している。そんなことにも少しずつ慣れてきた。

■ここでボリュームアップのはずが

8月の定例会でのこと。 会の最後、落語が終わって数秒余韻を残した後で音楽が流れる。パチパチパチというお客様の拍手をしばらくお辞儀した状態で受け止めてから、ゆっくり顔をあげてお礼の言葉をしゃべり始める。それに合わせて流れている音楽の音量はBGMレベルまで小さくなる。うっすら音楽が流れている中であいさつを済ませて、改めて「本日はありがとうございました!」と大きな声でお礼を伝える。それをきっかけにまた音楽が大きくなっていって、パチパチパチとありがたいことに拍手が鳴り響く。僕は舞台袖に消えていく。同時に舞台の照明がゆっくり暗くなって、その代わりに客席の明かりがつく。音楽はまた小さくなっていってBGMレベルになった状態で、お客様は劇場をあとにする。 という流れを想定していたのだけど、僕が「本日はありがとうございました!」とお礼を伝えて舞台袖に帰っていく間も、音楽は大きくならずBGMレベルでうっすら流れたままだった。当日、音響スタッフとして手伝ってくれていた後輩の「笑えもん(わらえもん)」が音量を上げ忘れてしまったのが原因だ。 操作ミスはどうしたって起こり得ることなので仕方ないとして「笑えもんは会の最後に音が大きくなっていかない状態でも違和感を感じることがないのか」とハッとした。 ライブイベントに携わる人間にとって、上記の流れだと最後に音量を上げるのは定石中の定石だ。最後に音を大きくすることで拍手の音も自然と大きくなって、盛り上がった状態で会が終わり後味も良い。むしろ最後に音が大きくならないと気持ち悪く感じてしまうくらいだ。 今年入門したばかりの笑えもんは、これまで人前でイベントをやった経験がなく、また観客としてもあまりライブイベントに触れてこなかったようで、そんなライブ演出の定石を知らなかったのだ。着物のたたみ方とか、太鼓のたたき方など前座仕事については先輩として一通り教えてきたけど、ライブについては特に何も伝えてこなかったなぁと気づいて、その日を境に僕が持っているノウハウは全て伝えるようにしている。 落語をやるのが落語家の仕事なのだから、別に音響とかはどうでもいいと思われるかもしれないけど、実はそうとも言い切れない。もちろんどんな環境でも圧倒的な落語を披露すればお客様を満足させられるだろうし、そういう落語ができるように最善は尽くすけど、その前の環境づくりによって伝わり方やウケ方は大きく変わる。 例えば舞台の高さや客席の配置の仕方。照明の強さ、そして音響の演出などなど、演者が同じパフォーマンスをやったとしてもより良い環境であれば結果は全然変わってくる。 僕は落語家になる前、お笑い芸人をやっていた時に演出の力を痛感した。上京してきて一番初めのライブを放送作家の倉本美津留さんが手伝ってくださった。てっきりネタについての色々なアドバイスがもらえると思っていたら、倉本さんから言われたのは「衣装選びのこと」と「舞台転換のこと」だけだった。観客は最初に衣装でイメージを固めるから、最善の選択を心がけるべきだ。そして、何本かのネタをつなげる単独ライブでは客席のテンションを下げないために、転換はできるだけ短くスムーズに行うべきだと。

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