芸術・文化は「不要不急」か:コロナ下で問われる日本の美術館の「特殊性」と存在価値
板倉 君枝(ニッポンドットコム)
コロナ禍で影響を受けた文化芸術関係者たちは、今後の活動の方向性を探っている。休館や展覧会の延期を余儀なくされた美術館も、さまざまな発信の可能性を模索中だ。全国約400の美術館が参加する「全国美術館会議」会長を務める建畠晢(たてはた・あきら)多摩美術大学学長に、美術館の現状と将来について聞いた。
観客不在の展覧会
2020年4月7日に緊急事態宣言が発令されてから宣言解除までの約2カ月間、全国の美術館はほぼ全て休館となった。二度目の宣言下では、大半がソーシャルディスタンス対策を取りながら開館を続け、今後の展覧会の在り方を模索している。 昨年の宣言下では、観客不在の不毛さを思い知らされたと建畠晢氏は言う。 「コロナによる休館前にオープンした展覧会が、休館のまま会期が終了してしまうケースもありました。私自身にも生々しい経験があります。館長を務める県立埼玉近代美術館では、洋画家・森田恒友の現代水墨画を含む作品の展覧会を開催中でした。このときは休館中でも作品の展示替えをせざるを得なかった。繊細な水墨画は照明で傷みやすいため、一定期間展示したら、作品の入れ替えが必要になるからです。再開できるかが不明のまま展示替えをする作業は、むなしいものでした。どんなに素晴らしい展示でも、一般観客に公開されなければ、新聞紙上で正当に評価する場も与えられない。展覧会は広く見られてこそ成立するという当たり前のことを改めて思い知らされました」 「予約制などの“三密対策”を取りながら再開した際、美術館に来られてホッとしたという人が多かった。作品を見るためだけではなく、癒やしの場としても求められていることが分かり、うれしかったですね」
試行錯誤のオンライン発信
前回の宣言時に長く休館を余儀なくされた時、さまざまな美術館がオンラインによる展示公開を試みた。 「展覧会は美術館の空間を体験することでもあります。臨時休館を余儀なくされた際、森美術館、東京国立近代美術館をはじめ、多くの美術館がストリートビュー形式で作品を見て回る疑似体験を提供しました。ただ、最初は新鮮でも、かえって鑑賞の妨げになるという声もある。各美術館は、ストリートビュー以外でも、オンラインならではのアプローチを模索しています。例えば作品をクリックすれば創作者のインタビューが聞ける、あるいは補足資料が読めたり、展示されていない他の作品との比較ができたりするようなやり方です」 コロナが終息しても、オンラインで補完的な発信を充実させていくだろうと建畠氏は言う。 「例えば、美術館の活動には、展示以外に『ミュージアム・エデュケーション』(社会教育の場としての活動)があります。その一環で制作体験のワークショップを設けたりするが、これも、オンラインによる制作体験とリアルなレクチャーの組み合わせで開催することが可能です。例えば、多摩美術大学で行った授業が参考になります。コロナで来日できない留学生たちに、現地で調達できる素材で、自分の部屋の机上で作品を制作させる。そして、制作過程や作品を動画などでアップロードし、批評し合うという形式です。こうした手法は美術館でも応用できるはずです」