なぜガンバはV字回復優勝を成し遂げることができたのか
中断明けの20試合で、ガンバは15勝3分け2敗と驚異的なV字回復を達成した。宇佐美貴史とパトリックの2トップにけん引され、20試合で45得点を叩き出した伝統の攻撃力が眩いスポットライトを浴びている。しかし、20試合で失点を「12」に抑えている点も見逃せない。 「いまは点を取られる雰囲気がない。攻撃陣が1点でも取れば勝てるという雰囲気が、いいモチベーションにつながっている」 後半戦を戦いながら宇佐美がこう語ったことがあれば、アギーレジャパンにも選出されたGK東口順昭も堅守の理由をこう明かす。 「味方が体を張って防いでくれるのでシュートコースを限定できるし、攻守の切り替えの速さやクリアしたボールを簡単に相手へ渡さない点も非常に大きいと思う」 シーズンを通した最少失点チームは横浜F・マリノスの「29」だが、中断明けに限定すれば、ガンバの堅守ぶりは他の追随を許さなかった。最終ラインが安定したのはもちろんのこと、その前で相手ボールを奪い続ける今野の復活とガンバの逆転優勝は密接にリンクしていることになる。 7連勝と5連勝を一度ずつマークした後半戦で、今野はこんな感覚を抱いたという。 「リーグ優勝するチームってこんな感じなのかなと思いましたよね。試合前から『勝てる』と思うし、攻撃のバリエーションがどんどん増えて守備も堅くなっていったので。オレ自身、何かをつかんだ気がする。ヤットさんとボランチを組むことで、ゲームはこうやってコントロールするんだと。相手がボールを持っているときでも、守りながら攻められるようになった。ボランチをやっていて今はホントに楽しくてしかたない。チームに生かされているし、オレもいいパスを供給できているからね」 アギーレジャパンでボランチとして代表復帰を果たし、11月18日のオーストラリア代表戦では約3年ぶりとなるゴールも決めた。そして、ガンバではナビスコカップに続いてJ1のタイトルも手にした。豊穣の秋が、今野の表情をサッカー少年のように輝かせる。 「引退するまでに絶対に一度はリーグ優勝がしたかったからね。ガンバでは何か起きたときにはセンターバックをやるけど、基本的にはボランチで勝負していきたい。得点やアシストが増えれば、もうひとつ上のレベルへいける。オレを守備だけの選手と思っている人がたくさんいると思うので、そういう人たちを見返していきたいですね(笑)」 シーズンはまだ終わっていない。13日にはJ2のモンテディオ山形との天皇杯決勝が日産スタジアムで行われる。J2から昇格して即リーグ優勝を果たしたケースは2011年シーズンの柏レイソルに次ぐ2チーム目となるが、昇格したシーズンで国内三大タイトルを独占したチームは現時点で存在しない。 「ナビスコカップのときもそうだったけど、決勝戦は勝てばいい。延長戦を含めた120分間でも、PK戦でも。今日は90分間で勝たなきゃいけないと思ってプレーしていた。プレッシャーが違う。楽な気持ちというか、自信を持って天皇杯決勝に臨めると思う」 日本サッカー史上にその名を刻む快挙へ。サッカー人生の地獄からはい上がってきた今野の言葉が、実力と勢いとを共存させるガンバの現在地を何よりも物語っている。 (文責・藤江直人/スポーツライター)