『宙わたる教室』が驚きの速さでドラマ化&絶賛された理由 格差社会をどう生きるか
ドラマは時代を映す鏡だ。毎クール、何本かの作品を並行して追っていると、ジャンルやテイストは全く違うのに、主人公の境遇や根本的なテーマなどが共通していることがある。きっと、その重なる部分が“時代”なのだろう。今期はまだ放送中の作品もあるが、「貧困と格差が拡大していく現代をどう生きていくか」「その中で社会はどうあるべきか」を問うたものが多いように思う。 【写真】『宙わたる教室』最終話 場面写真(複数あり) もともと、人は生まれながらにして平等ではない。人種や性別、容姿、生まれた場所、親の地位や経済状況、障害の有無など、自分の意志に関係なく最初から決められている要素がたくさんあって、それによって人生の難易度は変わってくる。 たとえ、自分の置かれた状況が恵まれていなかったとしても、努力していれば、報われるという希望がかつてはあったかもしれない。だけど、今は「親ガチャ」というワードをよく耳にするように、生まれ持ったもので人生が決まると思わざるを得ない状況が多々ある。失敗を許さない風潮も強まり、一度社会のレールから外れると元に戻るのも困難。そして、どんなに嘆いても自己責任の一言で片付けられる世の中で、腐らずに生きていくのはとても難しい。 『3000万』(NHK総合)では、経済的に苦しい生活から抜け出すために事故相手が所持していた大金を盗んでしまった夫婦が、特殊詐欺の片棒を担がされる姿が描かれていた。今、世間を賑わせている闇バイトによる事件でも多くの若者が逮捕されている。その中には、小遣い稼ぎのつもりで安易に手を出した人もいれば、食べるものにも困って、それしか頼る方法がなかったという人もいるだろう。 「どうせ自分はこの程度の人間」と諦めかけている人たちに、少しでも希望を与えたいという試行錯誤があらゆる作品で見られた。例えば、高度経済成長期の端島が一つの舞台となった『海に眠るダイヤモンド』(TBS系)では、戦争を生き抜いた人々が耐え難い苦しみを抱えながらも、地に根を張って逞しく生きる姿と、それが報われる瞬間が描かれており、観ているだけで生きている限り、何度でも立ち上がれるのだと力が湧いてくる。 『無能の鷹』(テレビ朝日系)は超有能そうに見えて、実は無能な新入社員が主人公。とびきり明るいコメディだが、心が救われたという人も多いのではないか。特に、主人公の「私がこの会社を必要としてるから、会社に必要とされているかは、考えないようにしてる」という台詞は心に留めておきたい名言だ。他人の評価は気にせず、自分が自分を信じて進んでいれば、自ずと道が拓けていくことをこの作品は教えてくれた。 もちろん、本人の心の持ちようだけではどうにもならないこともある。周囲の人々や、場合によっては社会のサポートも絶対に必要ということが描かれているのが『放課後カルテ』(日本テレビ系)だ。本作は、小学校の保健室に“学校医”として赴任した小児科医と子どもたちの心の交流を描いたヒューマンドラマ。孤独感から破壊衝動を抱える児童、ナルコレプシーという睡眠障害で日中も強い眠りに襲われる児童、学校で声が出せなくなる場面緘黙の児童など、主人公は子どもたちが抱えるさまざまな心身の問題と向き合い、周りに働きかけてサポートしていく。そういう出会いがあったら、未来も大きく変わるはずだ。 そういった「どう生きていくか」「社会はどうあるべきか」という2つの視点が同居していたのが、『宙わたる教室』(NHK総合)だった。本作は、2023年10月に文藝春秋から刊行された地球惑星科学の元研究者でもある作家・伊与原新の青春“科学”小説をドラマ化したもの。筆者は圧倒的文系で、正直始まる前は「科学かぁ……」と思っていた。だが、今はそんな自分を恥じたい。なぜこの小説が「青少年読書感想文全国コンクール」の課題図書に選出されたのか、発売から約1年という早さでドラマ化されるに至ったのか。その理由はこのドラマを観れば、明らかだった。