学校の健康診断、脱衣必要? 「不快な経験」訴える子も、疾病見逃しには懸念
医療者側はどう考えているのだろうか。 日本医師会(日医)の渡辺弘司常任理事は1月の定例記者会見で、文科省の学校健診に関する通知に言及。側彎症は成長期に発症し、脊柱が左右や前後に曲がる。衣類を着けたままだと、「診断率が低下することが報告されている」と指摘した。皮膚の疾患についても「外傷があれば虐待の可能性の発見にもつながることがある。見落としをできるだけ避ける必要がある」。 どこまで正確な判断を求め、具体的な実施方法をどうするか。健診項目の一部について「児童生徒や保護者の考え方、変化する社会情勢に必ずしも適応しているとは言えないものもある」と認め、関係者と協議するとした。 渡辺常任理事はその後、6月の会見で、法令に定める健診項目以外の検査を行う場合や、プライバシーに関わるケースは「事前に保護者に説明し、同意を得ておく必要がある」とした。9月の会見では、文科省とともに学校医が健診を行う上での留意点をリーフレットにまとめたことを明らかにした。健診項目が社会的状況に見合っているか検討を求める要望書も8月に文科省に提出したという。
側彎症ついては、日本側彎症学会も5月にホームページに見解を発表している。早期発見、治療が必要な疾患で、学校検診には「医学的意義がある」とした。体表面や背部が覆い尽くされると「発見率が低下する可能性」を危惧。近年はプライバシーを尊重し、検査機器を用いている地域もあるという。 ▽同意のプロセス、形骸化 学校健診を巡る議論はこれまでも繰り返されてきた。公衆衛生の問題に詳しい京都大の児玉聡教授(倫理学)によると、学校での集団健診は子どもたちの健康状態を効率良く調べるという重要な役割を担っているという。 児玉教授は「保護者や子どもたちの同意を取るプロセスが形骸化したまま、プライバシーに関わる検査が行われていることは問題だ」と話す。学校側は十分な説明を行い、それでも保護者らが納得がいかない場合は、かかりつけ医などでの受診を選択できる体制を整える必要があると指摘する。 健診での脱衣は学校医によって考え方が異なり、「学校や各教委が対応を決めるのは難しいのが実態では」とみる。
混乱が繰り返されないためにどうすればいいのか。必要なのは国としての対応だという。脱衣するとしない場合で側彎症の診断率にどのような差があるのかなど、エビデンスを取り「国として健診の在り方をきちんと議論し、指針を示すべきではないか」と提案した。