〈新米は安いのか、高いのか〉コメ不足解消へすぐにできることと、これからなすべきこと
不安を打ち消すのに必要なこと
「賢者は歴史に学ぶ」とも言われる。消費者の購買行動と政府対応について遠くない歴史にも触れておきたい。 田中角栄内閣のときである。世界的な「調整インフレ」の中、1973年に生活関連物資の価格が高騰、買い占めや売り惜しみが社会問題となったいわゆる第一次オイルショックが起きた。 あらゆる物資がモノ不足、価格高騰で大騒動の中、食品でも起きた。 ある日、大阪から連絡が入った。「醤油が足らないそうだ。 明日は、開店と同時に買いに行かないと、手に入らない」 当時は食管法の下で食糧庁に力があった。広がる噂に対し食糧庁の幹部は、直ちに、醤油メーカーのトップを集め、醤油を満載したトラックを夜通し西に走らせ、開店前の店頭に山積みさせた。これを見た消費者は、「何だ、こんなにあるなら慌てることはないか」と立ち去ったと伝えられる。 これに倣ったのがトイレットペーパーを軽トラに山積みし旗を掲げた通産省紙業課長のパニック防止作戦である。 もう一つ、乳児用粉ミルクである。品薄状態となり、官僚たちは「買い占め売り惜しみ防止法」の対象に指定しようと閣議決定を試みる。しかし、閣議には掛からなかった。 「指定すれば、必需品だけに却ってパニックになる」と官邸トップの判断があった。かつての統制の怖さを十分に知っていたのである。 今回のコメ不足も、打ち消して是正するには、現ブツを目の前に積み上げて見せるしかない。籠城戦で水が枯渇した際に、米を水のように流して、敵方に、「水は十分ある」と見せかけた故事もある。
米卸業者から出た〝正論〟
2023年から24年産に至る米の動きに関して、ある米卸が、こうコメントした(8月31日 信濃毎日新聞)。 (1) 全国的品薄は、新米出荷で改善していく。 (2) しかし、価格は供給不足で高止まりしている。新米は、「当初は高め」だが、北東北、北海道が11月に出揃えば来年以降下がる (=年末あたりがピーク)ではないか。 (3)生産コストは上昇しているので、価格の適正化について理解を求めたい。 (4)今後とも生産調整を続けて行くのかどうか国民的議論があってよい。 これはまことに正鵠を射た指摘であり、こちらが常識、これまでが非常識だった。 このところの流通の混乱を受けて、コメ政策に関するメディアの見方も少しずつ変わってきたように思える。日本経済新聞は、9月2日付の経済面で、「いまこそ政策転換のとき」として、コメ生産抑制政策への批判に舵を切っている。 「農政の憲法」とも言われる食料・農業・農村基本法の改正にあたっても、食料安全保障を食料、農業政策の最重要課題に掲げているのだから、本来は、思い切って生産調整の廃止をはじめとする本質的議論があって然るべきだったのだ。