「鳩の糞」かと思ったら、まさかの「ノーベル賞」ゲット…「偶然」見つけた大発見、今も届く「生まれたての宇宙の声」
偶然の発見からノーベル物理学賞を受賞
ドップラー効果とは、私たちから遠ざかって(もしくは近づいてきて)いる物体から発せられた波の波長が、長く(短く)なる現象のことです(学校でこのテーマを学ぶときによく例としてあげられるのが、近づいてくる救急車のサイレンは高い音に、遠ざかっていく救急車のサイレンは低く間延びして聞こえるという現象で、これはドップラー効果によるものです)。 光は波とみなせるため、遠ざかっていくものから発せられた光は、ドップラー効果により、その波長は長くなります。これによって初期の宇宙からの光の波長は電波領域(より詳しく言うとマイクロ波領域)に移ってしまっているのです。つまり、電波で見れば実際に夜空はピカピカに光り輝いているのです。 初期宇宙からくるこの電波は、宇宙背景放射(もしくは宇宙背景輻射)と呼ばれます。1964年にアーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンが偶然発見しました。 この発見の経緯はかなりドラマチックです。当時二人は、現在はノキアの子会社であるベル研究所で超高感度アンテナの研究をしていましたが、その中で説明のつかない電波ノイズに出会いました。当然彼らも初めは地表からの雑音等を疑って、アンテナの鳩の糞の掃除までするなど徹底的に雑音を取り除こうとしました。しかし、いくらこれらの雑音を除去していっても問題の電波は残っていました。さらにこの電波は、全ての方向から一様にきているようでもありました。この電波シグナルこそが、まさにビッグバンからの名残の光だったのです(図2‒2)。 ペンジアスとウィルソンの二人はこの業績により、1978年のノーベル物理学賞を受賞することになります。
38万歳の宇宙に何が起こったのか
ここで、ペンジアスとウィルソンによって発見された宇宙背景放射が、実際には何を見ていることになるのかをより詳しく見ていきましょう。結論から言うと、これは年齢が約38万歳、温度が約3000度であった頃の宇宙の「スナップ写真」であると考えることができます。38万歳といえば非常に年老いて聞こえるかもしれませんが、これは現在の宇宙年齢の約3万6000分の1です。つまり現在の宇宙を40歳の人に例えれば、宇宙背景放射は生後約10時間のときの写真に対応しているのです。 では、なぜ宇宙背景放射が宇宙誕生約38万年後の姿を映しているのでしょうか? 言い換えると、38万歳の宇宙に何が起こったのでしょうか? 鍵となるのは、38万歳以前の宇宙の温度はあまりにも高すぎて、通常原子を構成する原子核と電子がバラバラに飛びまわっていたという事実です。温度というのは運動エネルギーの尺度です。高温による激しい運動が、原子核と電子が束縛状態になるのを防いでいたのです。この状態では、光は電荷を持った電子に散乱され、まっすぐ進むことができません。 しかし、誕生から38万年経って宇宙の温度が3000度以下になると、もはや原子核と電子はそれぞれが持つ電荷による引力に逆らってバラバラに飛びまわることはできません。より具体的には、原子核は電子を捕捉し、現在私たちの周りにあるような、電荷を持たない中性の原子の状態になります(図1‒3)。そしてこうなると、中性である原子は光を散乱しないので、光は直進できることになります。 この宇宙誕生から38万年後に起こった、宇宙が光に対して不透明から透明な状態に変わったでき事を「宇宙の晴れ上がり」といいます。現在私たちが宇宙背景放射として見ているのは、この誕生後38万年の時点の宇宙から伝搬してきた光(電波)なのです(図2‒3)。