北山宏光出演「卒業タイ厶リミット」小説ならではの仕掛けを見事に映像化 原作・ドラマどちらからでも!
■花の妖精・みっくん! でも……
さて、みっくんである。欅台高校の理事長にして、校内の花壇で花を育てるガーデナー。水は足りているかい? と優しく花に問いかける。彼の登場シーンは心なしか紗がかかったような、メルヘンチックでふんわりした雰囲気だ。そんな彼は「花の妖精」と呼ばれ、彼の姿を見た生徒は幸せになれるなんて伝説が生まれたほどだ。なんてキュートでファンタジックな役なの! ──と思ったでしょう? ところが原作の小菅理事長はまったく違うのだ。生徒に厳しくて恐れられている存在なのである。完璧主義者で、勉強ができる生徒には部活や行事を、部活や行事をがんばっている生徒には勉強を強制する。やたらと生徒に干渉したがり、風紀の乱れを嫌って校則を増やす(ドラマでは校則のない高校ということになっていたが、正反対だ)。問題のある生徒には異常なほど執着する。土足で生徒のプライベートに踏み込む──と、これは黒川視点の小菅評だが。 つまり、ドラマで峯村リエさん演じる校長先生、あのキャラクターが原作の小菅理事長と思えばいい。原作の校長はもっと普通の小物だ。つまりドラマでは、原作の理事長のキャラを校長に割り振り、まったく別の造形の理事長を作り出したわけだ。 原作の理事長はもともとやり手のビジネスマンで、「目は笑っていない」「空恐ろしい笑顔」で学校に君臨し、生徒に煙たがられる。4人が音楽室を監視しているとき、ドラマでは荻生田が花の世話をする理事長に見つかったが、原作ではそんな場面はない。なぜなら「理事長はこんな雑草だらけのところ通らない」からだ。ね、正反対でしょ? なのでここはぜひ、原作の理事長をみっくんで脳内再生しなら読んでみていただきたい。花を愛でるフェアリィみっくんもいいけど、厳しくて、何を考えてるかわからない鉄面皮で、どこか不気味で、空恐ろしい。そんな理事長をみっくんで想像してみて? それはそれでなかなかいいぞ。 もちろん、脳内再生のヒントはドラマにもあった。ラス前、第23回がみっくんの見せ場だ。たった15分で、あんなにいろんなみっくんの表情が見れるドラマ、他にある? もうみっくん七変化だオンステージだ(ああ、ネタバレできないのが辛い)。花の妖精からの振り幅、そして、原作の小菅の不気味さがあんな形で再現されるとはね! 原作のクライマックス場面、ぜひともみっくんのあの表情を想像しながらお読みいただきたい。面白さ倍増だぞ。
新潮社