選挙を行うスイスの幼稚園児たち、遊びながら民主主義を学ぶ
(c)AFPBB News
【2月14日 AFP】スイス西部ローザンヌ(Lausanne)の林に数十人の園児が集まって並んでいた。子どもたちは、ままごとや積み木遊びをしているわけではない。自分たちで運営している「村」で、自分の生活を形作るルールを決める選挙を実施しているところだ。 ローザンヌにある私立の3幼稚園がつくった「公民権プロジェクト」は、子どもたちに幼い頃から直接民主制になじんでもらうことを目的にしている。スイスでは、数か月ごとにさまざまな問題について国民投票が行われている。 これらの幼稚園を運営するエデュカリス(Educalis)グループの代表、オリビエ・ドゥラマドレーヌ(Olivier Delamadeleine)氏はAFPに、「子どもたちに民主主義を学んでもらうことが狙いだ」と語った。 「正しい行動様式を幼い頃から身に付けることが重要だと私たちは考えている」 スイスではこのような取り組みが増えているが、エデュカリスのプロジェクトが際立っているのは、参加者の年齢が極めて低い点だ。 週に一度、三つの幼稚園から3~4歳の園児ら35人ほどが、郊外の林にある自分たちの「村」に集まる。 中には、村長や看護師、警察官役を務め、手作りの制服を着ている子もいる。 「子どもたちは自分の役を真剣に受け止めています」とドゥラマドレーヌ氏が説明した。防寒服の上に白地に赤十字のマークを描いたTシャツを着た看護師役の女の子が、雪の上に顔から落ちて泣いている子どもの元に駆け寄って行く。 村では、天候にかかわらず一日を屋外で過ごす。この日は、色とりどりの防寒服を着込んだ子どもたちが階段に座り、そわそわしながら、ビッグイベントである「村民投票」を待っていた。 雪の上に設置された机の上に金属製の投票箱が置かれ、その向こう側に2園の園長を務めるイブ・レプラトニエ(Eve L'Eplattenier)氏が膝をついている。そして背後で風にたなびいている旗を指して言った。白地に大きな「E」という文字をあしらった紋章入りだ。 「これは皆さんの新しい旗です」とレプラトニエ氏は子どもたちに呼び掛け、昨年11月に実施された第1回の村民投票の結果について改めて指摘した。子どもたちは前回、旗の二つのデザインから一つを決める投票を行った。 ■今後の議題はリサイクルとお昼寝の是非 子どもたちが今日決めるのは、投票の方法だ。現行の匿名式の投票システムを示す絵か、挙手システムを示す絵の隣に「X」印を書いて投票する。 レプラトニエ氏がオリビアちゃんとレイラちゃんを呼び寄せ、投票の手伝いを頼んだ。2人は、村のリーダーであることを示す手書きのTシャツを防寒服の上に着ている。 2人が、封をした封筒を他の子どもたちに配る。中には、各自が家で記入した投票用紙が入っている。子どもたちは、匿名性が保たれた投票用紙を手袋をした手で投票箱に入れていく。 投票が終わると、子ども5人と大人3人が小屋に入って行った。普段は食事用の場所だが、今日は「開票所」と書いたポスターが張られている。 皆で大きなテーブルを囲んで座ると、レプラトニエ氏が封筒を開けて投票用紙を二つの山に分けて積む方法を説明した。 全員で注意深く投票用紙を数えた。結果は、挙手に19票、匿名の投票システム継続に17票。 「手を挙げる方の勝ち」と、外に集まっている子どもたちにレイラちゃんが伝える。自分が投票した方法が選ばれず、少しがっかりした様子の子どもたちもいる。しかしレプラトニエ氏は、そうした不満を克服する手伝いをするのも訓練の一部だと話す。 次回の投票は数か月後。村のリサイクルシステムについて行われる予定だ。その後は、「幼稚園でのお昼寝の時間と長さ、そもそもお昼寝は必須かどうか」といったテーマが考えられるとレプラトニエ氏は言った。 レプラトニエ氏は、投票がどのように「自分の日常生活に影響し得るか、そして自分がどうやったら日常生活を主体的に送れるか」を子どもたちに示すことが主眼だと語った。 映像は1月18日撮影。(c)AFPBB News