2000万年前の海底に巨大イソメか、巣穴の化石を発見、台湾
長さ約2m×直径数cm、“サンドストライカー”ことオニイソメの巣穴に酷似
サンゴ礁周辺の海底の下には、巨大な襲撃者が隠れている。運のない魚が十分に近づくのを待ち伏せし、ギザギザの顎歯で素早く捕まえ、砂の巣穴に引きずり込む。あっという間の恐ろしい攻撃だ。その正体は、「サンドストライカー(砂地の襲撃者)」の異名を持つオニイソメだ。 【動画】瞬殺、オニイソメの狩り 貪欲な巨大イソメは、約2000万年前にも、現在の台湾北部で無防備の魚を捕食していたようだ。その巣穴とみられる化石が複数の場所で新たに見つかり、1月21日付けで学術誌「Scientific Reports」に発表された。 発見場所は台湾の野柳地質公園や八斗子岬だ。古代動物の活動の痕跡を留め、行動の手がかかりが得られるこうした貴重な化石は「生痕化石」と呼ばれる。今回の生痕化石は、長さ2メートル近く、直径約2~3センチの先史時代のチューブ状の巣穴で、論文によると、この地域が海に沈んでいた頃に生息していた生物が残した可能性が高い。 現生のオニイソメは18世紀後半には知られていたものの、詳細な研究が始まったのは最近になってからだ。今回の化石は、獰猛な巨大イソメが太古の昔から海洋生態系の一部であった可能性が高いことを示しており、巧妙な狩りの技術が進化的に優れていることの裏付けになりそうだ。
巣穴を作った古代生物の特定
現生のオニイソメ(Eunice aphroditois)は環形動物の多毛類に属し、潮が引いた砂浜で小さな泡を出すゴカイと同じグループに属する。しかし、オニイソメは、海岸で見られる仲間よりもはるかに大きくなる。 この究極の待ち伏せ型捕食者は、体長わずか数センチのものから3メートル近くになるものまでおり、極めて隠密性が高い。英ブルーリーフ水族館では2009年、水槽の魚が立て続けにいなくなることに困惑していたところ、魚の住処であるサンゴ礁を隅から隅まで調べると、オニイソメが1匹見つかったことがあった。 2013年、高知大学の生物学者である奈良正和氏は、エイの摂食行動の痕跡を留めた化石を求め、台湾で2000万年前の岩を調べていた時、奇妙な巣穴があることに気がついた。 当初、このL字型の巣穴は、古代のエビが作ったもののように見えた、と論文の共著者である国立台湾大学の古生物学者ルードビグ・レーベマーク氏は振り返る。多くの生物が海底の砂に巣穴を作るため、その生痕化石が特に変わっているとは思わなかったという。しかし、その化石を明確には同定できなかった。 2017年、国際会議で生痕化石の専門家が台湾の台北に集まり、レーベマーク氏らは初めて調査結果を比較することができた。巣穴の特徴は、それまでのどの化石記録にも当てはまらなかった。 「同様のものを誰も見たことがなかったことから、これが新種の生痕化石だと、我々は確信しました」とレーベマーク氏は話す。 だが、巣穴を作った生物を特定するには、さらなる調査が必要だった。「この巣穴を作ったのは環形動物だと確信したのは、1つだけの特徴からではありません。様々な特徴を加味した結果なのです」と同氏は話す。 巣穴の一番上の入り口のところは漏斗(ろうと)状に崩れ落ちているように見え、さらにその下の崩れた部分には羽状の構造が残っていた。これは、動物が何度も出入りしていたことを示唆している。 「漏斗状の部分は、激しい動きが起きたことを示しています」と同氏は付け加える。貝が砂からゆっくりと這い出た跡というよりは、環形動物が巣穴から勢いよく飛び出したかのようだという。 重要な地球化学的証拠が、この説を強固なものにした。巣穴の最上部は鉄分が非常に豊富で、巣穴を作ったものが何であれ、構造を維持するために上部の壁に粘液を浸み込ませていたことがうかがえる。その粘液をバクテリアが食べ、硫化鉄を生成する。このような粘液による要塞化は、現生のオニイソメの巣穴にも見られる。また、巣穴の最上部にある砂は定期的にかき乱されていたようであり、待ち伏せ型の捕食者が占拠していた可能性が高い。こうした捕食者の特徴に、オニイソメはよく合致する。 「羽状に崩れ落ちた特徴があるこれほど巨大な巣穴は、オニイソメのものとそっくりです」と英ブリストル大学の古生物学者ヤコブ・ビンター氏は話す。巣穴の大きさや、砂が変性している点も同じだと同氏は言う。なお、同氏は今回の研究には関わっていない。