ハラスメントはなぜ起きる? 欧州で「罰ゲーム」はNG? 日本のスポーツ界が抱えるリスク要因とは
スポーツ界におけるハラスメントは、なぜ起きてしまうのだろうか? 一般社団法人スポーツハラスメントZERO協会理事で、欧州フットボール界の最前線を知る佐伯夕利子氏は、「文化的、歴史的な側面や、社会の仕組み、構造など、いろいろな要素が絡み合っている」と話す。日本のスポーツ界におけるハラスメントの構造的要因について、スペインの例を交えて解説してもらった。 (インタビュー・構成=松原渓[REAL SPORTS編集部]、写真=AP/アフロ)
「スポーツハラスメント」の定義とは?
――スポーツハラスメントゼロ協会は、「スポーツハラスメント」をどのように定義しているのですか? 佐伯:言葉にすると少し難しいかもしれませんが、議論をしながら法学専門の方々にも見てもらい、一緒にワークしながら一言一句、句読点までチェックしながらまとめたのが、以下の定義です。 「スポーツ環境における不適切行為全般のことであって、当該行為を直接・間接に受けるもの(披行為者)が、選択ができる自由と機会を与えられていない状態で、権利および尊厳が侵害される言葉や行動を指す」 ただ、定義は時代によって少しずつ変わっていく可能性があります。日本の法律は改正手続きが厳重な「硬性」と言われる性質を持っていますが、ヨーロッパは社会のニーズや時代の変化とともに適応する形に法律を変えやすい「軟性」です。「スポーツハラスメントゼロ協会」は後者で、社会のありようによって変化できるようにしたいと考えています。 ――日本ではここ数年で「ハラスメント」や「コンプライアンス」といった言葉が飛び交うようになりました。世界的な基準に比べて、日本スポーツ界のハラスメントに対する意識の変化をどのようにご覧になっていますか? 佐伯:私自身の肌感覚では、世界レベルとは大きな開きがあると感じます。私はクラブを通じて知り合ったサイコロジストとかメソッドダイレクターとチャットやオンラインで興味や関心があることをよく議論するのですが、「一般社団法人スポーツハラスメントZERO協会」が2年前に活動を始めた頃から、彼らも日本の現状に対してフィードバックやアドバイスを送ってくれています。ただ、彼らも2年前は日本のスポーツハラスメントの実態を知りませんでした。 YouTubeで「スポーツハラスメント」と検索して出てくる動画には、残念ながら子どもたちを冒涜したり、蹴飛ばしたり、ビンタしている動画が出てきます。それを見た彼らは絶句して、「ちょっと待ってユリコ、スポーツハラスメントの話をしていたんだよね? これはそもそもスポーツの話ではなく、犯罪者の話だよね?」と言いました。彼らにとってのハラスメントは、指導者が「なんで右に行かないんだ!」「今の場面はシュートだろ!」と言うようなレベルで、日本で一般的に言われるようなスポーツハラスメントは、彼らの認識にはなかったんです。 ――同じスポーツで、そこまで認識に差が出てしまっているのですね。 佐伯:そうです。ただ、活動を続けるなかではうれしいこともありました。スペインで柔道家やテコンドーのオリンピアンを見ているサイコロジストがいるのですが、私たちの検定の内容を伝えた時に、「君たち(日本)の文化でよくありがちなピューニティブなアプローチじゃないところは素晴らしい」と言ってくれたんです。彼はアジアの文化、日本や韓国のスポーツ界をよく知っていて、「ピューニティブ」は、日本語で「懲罰主義」と訳されます。個や集団を導くアプローチ方法で、罰したり、裁いたりする意味合いで組織を統制しようとする考え方を指します。スポーツで言うと「負けたら罰走」とか、「ふざけていたから腕立て伏せ」などもそうです。