「骨密度」が高い人でも骨粗しょう症になる…骨の世界的権威が解明した「骨質」という要素
骨は人体という建造物の「鉄筋コンクリート」
鉄筋コンクリートの建物で言えば、コンクリートに相当するのがカルシウムなどのミネラルで、鉄筋はコラーゲンという繊維状のタンパク質。骨密度を示すのがコンクリートにあたるカルシウムで、骨質を左右するのが鉄筋にあたるコラーゲンです。 コンクリートが十分な強度を保つには、水とセメントの比率が基準通りでなくてはなりませんよね。水の割合を不当に増やした“水増しコンクリート”の建物は、いつ壊れても不思議はなく、怖くて誰も住めません。同様に骨もミネラルの濃度が薄い、低骨密度状態では、もろく、骨折しやすくなります。骨密度が重要であることは間違いありません。 ただ、鉄筋に相当するコラーゲンも、非常に重要な存在です。 というのもコラーゲンは重量的には骨の約20%程度しかありませんが、体積では50%も占めています。つまり、カルシウムとコラーゲンは半々の体積で骨を形成しているため、コラーゲンは、強度に大きく影響しているのです。 しかもこのコラーゲンは、建物の鉄筋同様、さびることがわかっています。通常は、加齢とともに骨質の劣化が進み、徐々にさびて、強度も低下します。こういった生理的なサビであれば、ある意味しかたないとも言えます。 問題は、骨密度が高いにもかかわらず骨折する患者さんの骨質です。皆さん、コラーゲンが過度にさびているのです。この事実を私たち慈恵医大のグループは突きとめ、コラーゲンの質の善し悪しが、骨質を決めるきわめて重要な因子であることを、世界で初めて明らかにしました。
骨質を低下させる「サビ」の正体とは
頑強な鉄筋コンクリートの建物も、長い歳月の間には老朽化し、長持ちさせるための修繕工事が必要になります。この修繕工事、すなわち「骨代謝」が、骨の場合は日々行われています。年間で7~40%が生まれ変わり、その都度、コラーゲンもカルシウムもフレッシュな素材に置き換わります。 しかし、鉄筋であるコラーゲンは時間の経過とともに「サビ」が溜まり、もろくなってしまいます。 「鉄筋のサビ」は、骨質を理解する上で大切なポイントです。コラーゲンそのものはフレッシュな素材に置き換わりますが、コラーゲン同士をつなぐ「架橋」の部分に、サビが生まれてしまうのです。 同じ築年数でも、潮風にさらされる海沿いの建物は、潮風のあたらない山沿いに建てられた建物に比べてひどくさびます。これは「塩害」といわれますが、サビだらけの鉄筋からなる建物は当然、耐震強度は低下します。 これは骨でも同じことが言えます。骨にとっての「塩害」は、からだの中で活性酸素の増大に起因する酸化ストレスの増大です。 酸化ストレスが増すことによって、コラーゲンの架橋部分に鉄筋のサビに相当する物質がどんどん蓄積してしまい、たとえ骨密度(カルシウム)が十分であっても、骨折してしまうのです。 コラーゲンのサビの正体、それは終末糖化産物(AGEs)というものです。 AGEsは、コラーゲンなどタンパク質の糖化反応(メイラード反応)によってつくられる生成物の総称で、からだのさまざまな老化に関与する物質として知られています。 AGEsが体内に溜まると、からだのサビを防ぐ抗酸化機能も低下します。活性酸素が増えて、からだのいたるところで炎症が起こり、さらにAGEsが増加し老化が進行するという、負のスパイラルに陥ってしまうのです。 【もっと読む】『健康な人は「骨」に気をつけている…年間に40%も生まれ変わる「骨の新常識」』では、骨が、体の中で1年に7~40%が入れ替わるほど最も新陳代謝が旺盛であることについて解説する。どんなメカニズムがあるのか、そしてその速さにはどんな意味があるのだろうか。
斎藤 充(東京慈恵会医科大学整形外科学講座主任教授)