「骨密度」が高い人でも骨粗しょう症になる…骨の世界的権威が解明した「骨質」という要素
骨が衰え、もろくなる骨粗しょう症の治療において、長年注目されてきたのが、骨の中のカルシウムなどのミネラル量である「骨密度」。しかし、骨密度が高い人でも骨折することがある。 【写真】快適な睡眠は「ふくらはぎ」が決める…! 謎を解く鍵は骨の構造や強度を左右するコラーゲンの状態である「骨質」にあった。骨粗しょう症をはじめ骨代謝の診断・研究・治療の世界的権威が、100年健康に生きるための骨の真実を明かした『100年骨』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
骨の強度を左右する「骨質」
骨粗しょう症の患者さんの典型的なイメージといえば、「やせ型の高齢女性」でしょうか。たしかに、骨を強くするためには「生理的な荷重負荷(体重)」は軽いよりも重いほうが有利であることがわかっています。 簡単に言えば、体重は重いほうが骨にかかる負荷が大きくなり、それに耐えられるようにと骨も強くなる。ある意味、四六時中からだに重りをつけてトレーニングしているような状態の太っている人のほうが、骨は鍛えられて強くなるということです。負荷が小さいやせている人は骨が強くなりにくいと言えます。 さらに女性は高齢になると閉経を機に、骨を丈夫にしてくれる女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が急激に減少するため、これまた骨粗しょう症に拍車がかかります。骨粗しょう症はやせ型の高齢女性に多い、というイメージは間違ってはいません。 しかし、私たち現場の整形外科医は、だいぶ以前から、奇妙な「事実」に気付いていました。それは、 ◎太めで、見るからに骨密度が高そうな人でも、レントゲンを撮ると骨粗しょう症で骨折していることがある(特に糖尿病や腎臓疾患、高血圧などの生活習慣病の有病者に多い) ◎治療薬の投与で骨密度を高めても、半数ぐらいしか骨折を予防できない「50%の壁」がある というものです。どうして、こんなことが起きていたか。それこそ、冒頭にお伝えした従来の骨粗しょう症の医療が、骨密度にしか着目していなかったからでした。 骨の強さとは、「骨密度」とイコールとは必ずしも言えません。骨粗しょう症に起因する骨折を予防するには、「骨の密度(=量)」と「骨の質」の両方が不可欠なのです。 私はこの30年、この事実をあらゆる場面で訴えてきましたが、まだまだ一般的には「骨密度」の重要性ばかりが強調されていて、骨の強化法についても、必ずしも正しい理解が広まっているとは言えない状況があります。 結果、2023年11月には、日本人の骨粗しょう症による骨折を原因とする実際の死亡者数は、公表されている数値の約19倍に上る可能性が示されました。骨粗しょう症に対する正しい理解が社会に認知されていれば、ここまでの乖離(かいり)は起きず、死亡者数も抑制できたのではと思います。 骨粗しょう症の正しい常識を、日本社会に広めていかなくてはならないと強く感じています。 ※参考:日本人骨粗鬆症性骨折の死亡は公表値の19倍─運動器─健康・公衆衛生─臨床医学─高齢者─医療ニュース─Medical Tribune(medical-tribune.co.jp)