社説:石破首相の所信 伯仲国会を熟議につなげよ
臨時国会が開会した。先の衆院選で厳しい国民の審判を受け、30年ぶりに「少数与党」に転落した第2次石破茂政権が初の本格的な論戦に臨む。 石破氏はきのうの所信表明演説で冒頭、「民主主義のあるべき姿とは、多様な国民の声を反映した各党派が真摯(しんし)に政策を協議し、より良い成案を得ること」と述べた。言論人出身で、戦後まもなく首相に就いた石橋湛山の施政方針をベースとした。 言葉通り、与野党の開かれた熟議で、国内外の難局を乗り切る立法府の新たな形を示してもらいたい。 これまで自民、公明両党の政権は、党内の事前審査で議案を了承した後、国会では野党の異論を軽んじ、数の力による強引な採決を常態化させていた。 緊張感を欠いた政治が、裏金事件など一連の不祥事の根底にある。与野党伯仲の国会で、機能不全を改めねばならない。 野党が衆院の予算委員長などのポストを押さえる中、合意を形成する民主政治が問われる。 だが、所得税をめぐる「103万円の壁」など、自公が国民民主党を加えて進める協議は、従来の密室での数合わせと重なってみえる。躍進したとはいえ、衆院の約5%にとどまる国民民主の意見を最優先し、不透明な妥協に走るべきではない。 石破氏は選挙結果を「政治資金問題や改革姿勢に対する叱責(しっせき)だった」とし、政治活動費の廃止や政治資金を監査する第三者機関設置を進めるとした。 一方で、自民の金権体質の根元にある企業・団体献金には触れなかった。政策をゆがめ、不祥事を誘発してきた献金の禁止は、世論調査でも7割の国民が支持している。踏み込まねば、改革の本気度が疑われる。 裏金事件では、参院の政治倫理審査会に自民党の関係議員全員が一転、出席する意向を示している。来夏の参院選を見越した通過儀礼にしてはなるまい。実態解明に向けた自民の再調査も改めて求めたい。 経済対策では、物価上昇を上回る賃金上昇の実現や「103万円の壁」の引き上げなどに言及した。 だが、「規模ありき」で14兆円近くに膨らんだ一般会計補正予算案は、電気・ガス代の補助再開など緊急性や効果に疑問が尽きない。財源は6兆円超の国債頼みで後世の負担が増す。十分な審議が要る。 日米地位協定の改定を持論とする石破氏は、自衛隊による在日米軍施設の共同使用を進め「駐留に伴う諸問題の解決に取り組む」と触れた。実現への道筋を与野党で探ってほしい。 野党は、重くなった責任を自覚する必要がある。 国民民主のように減税を求めながら「財源は与党で」といった態度は慎むべきだ。野党第1党の立憲民主党は、特に真価が試されよう。