JR東日本が「Suica」データで作る未来の街 高輪の大規模開発で一大実験
JR東日本が、高輪ゲートウェイ駅(東京都港区)西側で、強みを生かした独自の不動産事業を進めている。旧国鉄から引き継いだ駅から近い土地を大規模に開発。交通系IC「Suica(スイカ)」の顧客の利用データを活用し、住民や来訪者のサービスにつなげる未来型の街づくりだ。JR東が単独で初めて手がける複合再開発で、東京の新名所となるか注目されている。 【写真】JR高輪ゲートウェイ駅の近くで見つかった鉄道遺構「高輪築堤」の一部 ■改札をくぐれば 「高輪ゲートウェイシティ」は、南北1・6キロメートルにわたる線路沿いの敷地を開発。高層ビル4棟、コンサートホールなどを備えた低層棟の文化施設を建設し、広場も整備する。高層ビルにはオフィスや高級ホテル、商業施設、マンションが入居する。 事業費は約6000億円。駅の乗客数は、オフィスで働く2万人を含めて、1日当たり13万人以上を見込む。恵比寿駅と同等の規模だ。 他にない特徴は、街と利用者のスイカのデータの連携ができることだ。現在、さまざまなサービスが検討されている。 スマートフォンで専用アプリに健康情報を登録してもらったうえで、街に来た人に飲食店でのスイカ決済情報などをもとに、健康に関するアドバイスを提供。働く人には社員食堂で健康的なメニューを提案する。マンション住人に対しては、スイカで改札を通過すれば、連動して自宅の空調が作動し風呂がわくサービスを行う-といった内容だ。 スイカの発行枚数は累計で1億枚を超えるが、従来、用途は決済にとどまっていた。JR東ではデータを幅広く生活に応用できる「スイカ生活圏」を作る考えで、今後は街づくりで得たヒントをもとに、スイカの機能拡充も進める。 ■地方誘客の拠点 立地の強みが生かされるのが、低層の文化施設だ。一例として「月」がテーマのコンサートを行う場合、電車や駅構内のディスプレーに月の映像を掲出。施設にいたる広場(私有地)では「竹取物語」のパフォーマンスを行い、町全体で一体感を持たせた演出ができる。 「忠臣蔵」や「青森ねぶた祭」など伝統色、地方色の豊かな芸能にも応用し、将来的には地方への誘客につなげる拠点とする。訪日外国人客の集客も期待され、喜勢陽一社長は10月の発表会で、「国内外からの来客に滞在する価値の高い空間を提供できる」と自信を示した。