ポステコグルーの進化に不可欠だった、日本サッカーが果たした役割。「望んでいたのは、一番であること」
「開幕4試合目の浦和レッズとのアウェイ戦をよく覚えています」
今矢は続けた。 「私が選手や指導者を経験していたことは、間違いなく役立ちました。アンジェのメッセージを字面どおり日本語にするだけなら、可能かもしれません。でも、人間を相手にしていますから、メッセージの中身を適切に浸透させる必要があります。ときには行間を読む必要がある。『アンジェは何を言おうとしているんだ? 何が言いたいんだ? 直訳じゃ本当のメッセージが選手に伝わらないぞ』と考えないといけない。だから、選手の感覚を知っていることが役立つんです。元選手ですから、監督の言葉選びの影響力はわかっています。いい影響もあれば、おそらく悪い影響もある。 特定の試合や一日が分岐点になったわけではありませんが、開幕4試合目の浦和レッズとのアウェイ戦をよく覚えています。レッズは今も強豪ですが、当時も強かった。それまでの成績は1分2敗。『攻めるぞ』とか『勝ちにいくぞ』とか、ほとんどの監督が正攻法を口にするかもしれません。でも選手はどうか。引き分けで勝ち点1を取るか、内容が悪くても勝てば監督は満足するだろうと感じるものです。 アンジェはそれを拒みました。自分たちがすべきプレーを断固貫くことも、そこから外れるプレーを受け入れないことも、誰でもわかりました。彼は後退しようとしません。ほんの少し妥協することは、監督としては簡単です。でも、アンジェは口先だけじゃなかった。選手はもう、これが自分たちのすべきプレーなんだ、と感じていましたよ。 1年目、リーグ戦で勝ち始め、リーグカップ決勝(湘南ベルマーレに0対1で敗戦)に進んだときに変化がありました。シーズン半ばまでは、まだ全員が信じているとは言えませんでした。しかし、1人が2人となり、2人が6人、そして7人となり、選手が自分たちのプレーに本当の情熱を見せ始めました。日本サッカー界のすべての人に対し、こんなやり方ができるのだと証明したがっていました。それがアンジェのメッセージであり、そのメッセージが選手の心の琴線に触れたのです」