円高を好む財務省・学者・メディアの「貧乏エリート」は、今の円安が大チャンスだと思えない
ここのところ進んだ円安に対して、方々から「悪い円安」論の大合唱が聞こえる。筆者の手元にある経済誌の最新号を見てみよう。 ■「悪い円安論」でほぼ一色に まず、『週刊東洋経済』(5月21日号)は、「緊急リポート 円安は止まらない」と題する4本の記事からなる小特集を作っている。 同特集では「政府日銀はお手上げ状態だ」「日銀は円安の進行を傍観しており、判断先送りが最悪の事態を招く」「日本の経済成長力(稼ぐ力)の相対的劣勢を是正しない限り、円安傾向は変わらないだろう」「ゼロコロナ政策による中国の停滞のせいで日本は円安局面を生かせない」、などと論じている。
同社のライバル誌であろう『週刊ダイヤモンド』(5月21日号)も「日本の『国力』低下危機 円安の善と悪」というタイトルで大特集を組んでいる。特集の冒頭に「泥沼の円安スパイラル」と題する要約ページを載せていることからもわかるように、円安に対する悲観論が圧倒的に優勢だ。 官庁情報に強い金融業界誌『週刊金融財政事情』もコラム「新聞の盲点」で、「悪い円安」を前提に、「日銀がはまった金融政策の罠」というタイトルの記事を載せている。
確かに、日本の消費者にとって、「直接的に」円安がマイナス材料であることは、ほぼ自明だ。原油等の資源の国際価格上昇を背景とした輸入物価の上昇に円安が拍車をかけるため、消費者物価も上昇しつつあり、賃上げがこれに追いつかないため実質的購買力が低下している。 加えて、各誌が何とか円安の悪い面を描き出すために説明するとおり、企業物価の上昇に表れる企業の原材料等のコストが上昇するいっぽう、コストの価格転嫁がうまくいかずに円安が負担になっている業界がかなりあるのも事実だ。
そして、内外の物価水準を調整した実質実効レートで見ると50年ぶりの円安であり、これは日本の国力低下を映しているのではないかとの見方にはリアリティがある。 だが、問うてみたい。日本の国力が低下しているのだとしたら、為替レートは円高のほうがいいのか、円安のほうがいいのか? 確かに消費者にとって一時の購買力は円高のほうがいいかもしれないが、数年単位で見た経済活動は円安のほうがマシのはずだ。 年初のドル円レートは1ドル=約115円だった。輸入が必要な資源価格が暴騰する逆風の環境で、かつコロナからの影響が十分に回復していない状態にあって、1ドル=100円の円高になるのと、130円の円安になるのと、どちらが良かっただろうか。「為替レートの急変には弊害があるが、総合的には円安のほうがプラスだ」という日銀の黒田東彦総裁の考えが正しいのではないだろうか。