ビジネスパーソンのためのSaaS KPI入門
リモートワークが日常化する中で、SlackやZoomなど“SaaS”と呼ばれるクラウド型のソフトウェアは私たちの仕事に欠かせないものとなりました。 【画像】SaaS上場企業 ARRランキング 新型コロナウイルスの影響で苦境にあえぐ観光業界や飲食業界とは対照的に、SaaS企業の株価はリモートワーク化や政府のDX推進の後押しを受け、3月のコロナショック以降、大きく値を上げています。 現在、米国では時価総額上位100社中7社にSaaS企業がランクイン、国内に目を向けると、新興企業向け株式市場マザーズにおいても、時価総額の上位10社中、6社がSaaS関連の企業となるなど、産業として急速に台頭していることが伺えます。 もはやビジネス用語として定着した“SaaS”ですが、このビジネスを理解する上で欠かせないのが「SaaS KPI」と呼ばれる指標です。 ARRやARPU、Churn Rate(チャーンレート)といった指標を基に事業説明がなされることが多い“SaaS”ですが、「なぜそれらのKPIが用いられるのか」「何が最も重要な指標なのか」「どのように捉えるべきか」を端的に説明できる方は多くないと思います。 この記事では、SaaSビジネスにおいて、国内トップランナーであるfreeeの決算説明資料を基に、ビジネスパーソンが最低限押さえておきたいSaaS KPIの解説を行っていきます。 解説にあたっては、この決算説明資料の公表元であるfreeeファイナンス統括の原昌大執行役員にもコメントを頂きながら、そのエッセンスを理解していきます。
疑問1――なぜ、SaaSでは独自のKPIが使われるの?
A SaaSは予見可能性が高い、ストック型ビジネスだから SaaSは、BtoB向けの月額制サブスクリプションモデルであることが一般的です。解約されない限りにおいては、継続的に収入が積みあがっていくため、従来の売り切り型(一回きりの収益発生)のビジネスとは性質が異なります。 売り切り型のモデルでは、将来的に売れる確約がなく、「過去に実現した売り上げ」で語られることが多くなります。一方SaaSビジネスにおいては、契約が続く限りにおいては先々の収益が確約されることになるため、「その時点において、定常的な収益がどのくらいあるか」を示すRecurring Revenueという考えが用いられます。 サブスクリプションサービスという性質上、恒常的な収益を示すMRR(Monthly Recurring Revenue)もしくは、ARR(Annual Monthly Recurring Revenue:期末時点のMRRを12倍した数値)がSaaSビジネスの規模を図る上で最も重要といえます。 freeeも決算説明資料の冒頭、キースライドとしてARRを示しています。直近四半期ベースで85.5億円という水準に加え、前年同期比ベースで49%の伸びを遂げていることが分かります。成長著しいSaaS企業においては、このARRの絶対額、そして成長率がどのくらいの水準であるかという点に注目が集まります。