美味しく魚を食べるための「活け締め」という技術
黒木瞳がパーソナリティを務めるニッポン放送「あさナビ」(5月16日放送)に「株式会社ウエカツ水産」代表取締役の上田勝彦が出演。活け締めについて語った。
黒木瞳が、さまざまなジャンルの“プロフェッショナル”に朝の活力になる話を訊く「あさナビ」。5月16日(月)~5月20日(金)のゲストは「株式会社ウエカツ水産」代表取締役の上田勝彦。1日目は、魚を従来の方法より美味しく保つための「活け締め」について― 黒木)上田勝彦さんなので、「ウエカツ水産」なのですね? 上田)そうですね。 黒木)ウエカツ水産は何人でやってらっしゃるのですか? 上田)9年目なのですが、私1人でやっています。 黒木)お弟子さんなどを育てたりはしないのですか? 上田)育てたいですね。ところが私のやっている仕事の内容が、魚を美味しく食べるということや、魚をどのように加工するかというような単品であればいいのですが、それらが横にすべて芋づる式につながっている仕事なので、育てるということは難しいですね。 黒木)芋づる式? 上田)生産、加工流通、スーパーでの小売り、飲食店があって家庭の食卓がある。この5本の柱を横に同時に連動させていくと、よく動くのだなということが見えてきました。この数年間で、そのようなスタイルになってきました。
黒木)魚の悩みであれば、何でも相談に乗るそうですね? 上田)名刺の裏には「万相談承ります」と書いてあります。 黒木)その5本の柱をもとに、活け締めなどの技術の指導もなさるのですよね。 上田)学生時代から漁船に乗っていて漁師上がりなので、最初の出足は漁師サイドに軸足を置いていました。そして魚がどうも安いと。扱いによっては魚の品質を落としてしまう。それならば、いい品質の魚をどのようにつくるのかというところで、活け締め技術を自分で学んで、それを全国に伝え始めたということがきっかけです。 黒木)その活け締めをすると魚の味が変わるのですか? 上田)変わりますね。大きく分けて、魚の締め方には「活け締め」と「野締め」に分かれます。野締めというのは、海水に氷を入れて、そのなかに魚を入れて冷えて死んでいくという氷締めです。活け締めは生きている魚を一発で殺してあげる。その次に劣化しやすい血を抜いてあげて、体の方は神経が通っている限り生きているので、その神経を壊してあげる。そして体温を一定のところまで下げてあげるという工程になります。 黒木)その技術は難しいのではないですか? 上田)技術自体はそれほど難しいとは思いません。しかし、その1つひとつが重要なので、荒いやり方をしてしまうと効果がないのです。その意味では、デリケートな技術とも言えます。 黒木)漁師さんがその活け締めの技術を知っていないと、美味しい魚を売ることができないということになるのですか? 上田)昔は仲買の技術でした。漁師は魚を生かして持ってくるので、その魚を活魚で買って仲買が締めていい状態にして出荷するという形だったのですが、そのようなことをやる人のところに利益が落ちてしまうのです。 黒木)なるほど。 上田)私は兵庫県の鯛で有名な「明石浦漁協」というところに3年間勤務していました。そのあとマグロ船に乗っていました。マグロ船でも神経締めというものをします。揺れる船の上でそのような技術を施すということを参考にしながら、1つの体系をつくっていきました。 飯田)体系をつくった。 上田)漁師でもできる活け締めとは何かということです。活け締めによって、死後硬直までの時間が長くなるのです。そこまでの時間が長ければ長いほど、エネルギー物質がうま味に変わっていく量が増えていきます。野締めだと死後硬直が早いので、うま味に変換される時間が短くなる。最初のうま味が多いと熟成したときのうま味も多いのです。 黒木)同じ魚でも、美味しいか美味しくないかは、そこにかかってくるのですね。 上田)魚が疲れていたり、産卵後で体力が落ちていたりという意味での美味しくなさというのはありますが、健全な魚にそのような技術を施すか施さないかというところで大きく変わってきます。