日銀・黒田総裁会見3月18日(全文1)必要な時点まで量的・質的金融緩和を継続
ウクライナ情勢の国内外経済に与える影響は
NHK:ありがとうございます。幹事社から2点お伺いします。まず初めに、今回、公表文でもリスク要因として掲げられました、ウクライナ情勢の緊迫化ですけれども、不確実性が高いということですが、世界経済や日本経済に与える影響、具体的にどういったリスクとして想定されているのか、お考えをお聞かせください。これが1点目です。 黒田:ロシアによるウクライナ侵攻と、それに伴う各国のロシアへの制裁等の動きは、さまざまな経路を通じて世界の経済・物価動向に影響を及ぼすと考えられます。第1に、原油や天然ガス等のエネルギーや小麦等の穀物、ニッケル等の金属を中心に、国際商品市況が大幅に上昇しています。第2に、ロシア関連の貿易取引の縮小や、サプライチェーンへの悪影響が予想されます。第3に、国際金融資本市場における不安定な動きや先行きの不確実性の高まりは、家計や企業のコンフィデンスの悪化をもたらす可能性があります。これらはロシアとの経済的な結び付きが強い欧州を中心に、世界経済の下押し要因になると予想されます。同時に、このところ高まっているグローバルなインフレ圧力が一段と増幅されうると考えます。 わが国経済への影響について見ますと、資源の大半を輸入に頼っているため、当面は資源価格の上昇の影響が最も大きいと考えられます。すなわち、物価はエネルギーや食料品等を中心に当面はっきりと上昇すると予想されます。こうしたコストプッシュ型の物価上昇は企業収益の悪化や、家計の実質所得の減少を通じて、やや長い目で見た景気の下押し要因として作用するとみられます。
今後の金融政策のスタンスは
貿易活動を通じたわが国経済への影響については、ロシアやウクライナとの貿易量は小さいため、直接的な影響は限定的とみられます。もっとも海外経済への下押し圧力やサプライチェーン障害などを通じてわが国の企業の貿易・生産活動に間接的な影響が及ぶ可能性はあります。マインド面への影響については、エネルギー、食料品といった必需品の価格上昇が家計の支出意欲に悪影響を及ぼすことが考えられます。また、国際金融資本市場が一段と不安定な動きとなる場合には、企業の設備投資の先送りの動きにつながるなど、経済に影響を及ぼす可能性には注意が必要です。 いずれにいたしましても、ウクライナ情勢の帰趨を巡っては、極めて不確実性が多いと思います。日本銀行としては、この問題が感染症からの回復途上にあるわが国経済に悪影響を及ぼさないか、内外の情勢を注視していくこととしております。 NHK:ありがとうございます。もう1つ質問ですけれども、先ほどウクライナ情勢に伴う物価のお話がありましたが、資源価格の高騰、また、欧米との金利差もあって、円安が進んでいます。今後、国内の物価の上昇が見込まれていて、2%を超えていく可能性というのも高まっています。現在、大規模な金融緩和を続けている日銀ですけれども、今後の金融政策のスタンス、あらためてお聞かせください。 黒田:先ほど申し上げましたとおり、先行きの消費者物価の前年比は、当面、原油や天然ガスの価格高騰を反映して、エネルギー価格が大幅に上昇し、食料品を中心に原材料コスト上昇の価格転嫁も進む下で、携帯電話通信料下落の影響も剥落することから、プラス幅をはっきりと拡大すると予想しております。具体的には4月以降、当分の間は、今後の原油価格の動向や、それに対する政府の対応などにもよりますけれども、石油製品の上昇を主因に2%程度の伸びとなる可能性があります。 エネルギー価格の上昇はコスト増を通じた物価の押し上げ要因になる一方で、家計の実質所得の減少や企業収益の悪化を通じて、わが国経済に悪影響を与えるものでもあります。こうした下で日本銀行は持続的・安定的な物価上昇を目指して、現在の強力な金融緩和を粘り強く続けていくことが適当であると考えております。もとより、日本銀行は金融緩和による需要の増加を背景に企業収益や雇用、賃金が上昇する中で物価も基調として緩やかに上昇していく姿を目指しているわけであります。 NHK:ありがとうございます。幹事から質問は以上です。各社、お願いします。