そもそも「党首討論」とは? 過去の主なやり取りを振り返る 坂東太郎のよく分かる時事用語
【偽メール問題=小泉首相×前原代表】
2006(平成18)年2月22日には、小泉首相と民主党の前原誠司代表が激突。前年の衆議院選挙で、実業家候補が立候補に際して多額の金銭を振り込むよう自民党幹事長の次男に指示したメールがあるとした、いわゆる偽メール問題を前原代表がぶつけたのです。当初からメールの信ぴょう性が疑われる中、前原代表が「確証を得ている」「なぜ国政調査権に応じないのか」とただすと、小泉首相は「確かな証拠があれば行使するにやぶさかではないが、その前に極めて簡単な、本物だという証拠を出せば、あえて国政調査権を行使するまでもなく分かる」とキッパリ。その後、メールは「虚偽」だったと分かり、前原代表辞任に至ったのです。
【解散宣言=野田首相×安倍総裁】
民主党政権時代の2012(平成24)年11月14日の党首討論では、野田佳彦首相に安倍晋三自民党総裁が挑みました。首相が衆議院の「1票の格差」是正や定数削減に向けて「消費税を引き上げるというご負担をお願いしている以上、定数削減をする道筋をつくらなければなりません」と安倍総裁に実現への協力の確約を求めました。さらに「私は、いずれにしてもその結論を得るため、後ろにもう区切りをつけて結論を出そう。16日に解散をします。やりましょう、だから」と解散を明言。安倍総裁も「16日に選挙(議事録ママ)をする、それは約束ですね。約束ですね。よろしいんですね。よろしいんですね」と念を押すほどでした。 野田首相としては党首討論という衆人環視の場で“伝家の宝刀”を抜いてみせる千両役者ぶりを国民に見せつける狙いもあったのでしょうが、当時の政権は消費増税をめぐる内紛で分裂状態にあり、選挙のタイミングとしては最悪。案の定、12月の総選挙で民主党は大敗し、下野することになりました。
【歴史的使命=安倍首相×枝野代表】
この総選挙で政権復帰した安倍首相が2018(平成30)年5月30日、立憲民主党の枝野幸男代表らと約1年半ぶりの党首討論に臨みました。枝野代表は森友・加計問題についてただしたものの、持ち時間は19分で安倍首相とのやり取りは3往復に止まり、討論終了後、記者団に「意味のないことをだらだらしゃべる首相を相手に、党首討論という制度は歴史的な意味を終えた」と批判します。 それを受けて、翌月27日の党首討論で、安倍首相は「まさに今のやり取りを聞いていて、本当に歴史的な使命が終わってしまったなと、こんなように思った次第でございます」と意趣返しをしたのです。時間超過後の一言だったので多分に混ぜっ返しの意図があっただろうとはいえ、与野党の本音がそろったとも解せます。本家イギリスでは双方とも発言は端的かつ明瞭。安倍首相の長広舌が批判される一方で、野党側の質問も1つ1つが長く「短い」とされる質問時間を自ら費消している嫌いも拭えません。 過去の党首討論は、自民党のしたたかさと非自民党首のつたなさが総じて感じられます。コロナ禍という非常事態下で久しぶりに長めの時間を得る立憲民主党の枝野代表にはスピーチではなく、本来のクエスチョンを短くたたみかけるような論戦を仕掛けてほしいものです。党首討論は資料の棒読みが御法度ですから、菅首相も自らの言葉で対峙されるのを期待しましょう。
----------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など