【彼女はNOの翼を持っている】あの頃の自分に読んで欲しい、ツルリンゴスターさんの作品
娘に、息子に、あの頃の自分に。そっと差し出したくなる言葉がいっぱい
20代の頃、仕事関係で呼ばれた食事会で「男性にだけお酌して回って」と言われたことがある。飲み会後のタクシーに「同じ方向だから」と乗り込まれたことも、すれ違う男性に思い切り鞄をぶつけられたことも。新入社員として集合写真を撮られる際、カメラマンに「一人だけ背が高いから、ヒール靴を脱いで床に直接立って」と言われたこともあった。あれもこれも、思い出すたびいまだにモヤッとするのだけれど、当時は“そういうもの”かと思って曖昧に笑ってやり過ごした。社会人だから、女だから、新人だから、“そういうもの”かと。 ツルリンゴスターさんの新刊『彼女はNOの翼を持っている』は、高校生のつばさを中心に、体や心の変化や周囲とのギャップ、性の悩みにとまどう、成長過程での人間模様を描いた物語。「嫌われたくない」「空気を壊したくない」と声をあげることをついためらってしまう中で、つばさのまっすぐな言葉や態度が、接する人を変えていく。 「なんとなく当たり前になってるだけのことって世の中にたくさんあるかもしれない」 「いつ誰に自分の大事なことを話すかはその人にしか決められない」など、作品内に出てくるセリフもハッとさせられるものが多い。中でも爽快なのは、義実家の集まりでお酌に回ることを断ったつばさの母親が、周りの女性から「お酌お嫌いサマ」と呼ばれているのを知り「私一生 お酌お嫌いサマでいい」ときっぱりと言うシーン。(そのひと言をきっかけに、女性陣の意識に少し変化が生まれるところも良い)。そのセリフを読んで「ああ、あのとき私もNOと言ってよかったんだな」としみじみ思った。 前々作『君の心に火がついて』に出てくるのは、夫婦間での不平等、モラハラ、ジェンダーに悩む、年齢も性別もさまざまな人たち。人の心に灯る“火”を食べて生きる妖怪を通して自分と向き合い、本来の感情を取り戻していく様子に胸と目頭が熱くなる。 こんなふうに人の背中を押すことのできるツルリンゴスターさんってどんな方なの?と、コミックエッセイ『いってらっしゃいのその後で』を読むと、なんともロックで格好いい3児のお母さん! 子どもへのフラットな目線や接し方には学ぶことばかり。 いつかもう少し大きくなった子どもたちに「いつだって、おかしいと思ったら“NO”って言っていいんだよ」と言ってこの作品を読ませてあげたい。そのときは「何当たり前のこと言ってるの?」と、時代遅れの母親として笑われるといいなと思う。