年齢、性別にとらわれる日本 多様性生かす企業文化に アジア開発銀行副官房長 児玉治美
女性は年齢と性別による二重の差別を受けている。これまではエイジズムとセクシズムを別々にとらえる風潮が強かったが、近年この2つの関係性が頻繁に論じられるようになった。 外見によって人を判断するルッキズム(外見至上主義)と相まって、若々しく魅力的な人が社会で優遇される傾向がある。これにより女性は男性より不利な立場に立たされる。 ルッキズムは男女を問わず採用や昇進など、職場での待遇に影響を与える。加齢による外見の「衰え」にかかわる差別は、女性は40代頃から経験し始め、男性と比べ時期が早い。 欧米の意識調査によると、10代から70代までの女性の大半が年齢差別を経験している。25歳未満の女性はまだキャリアを深刻にとらえていないと思われ、25~40歳の女性には家事や育児で忙しいという固定観念がある。そして40歳以降は介護で忙しく、男性や若い女性に比べて知力やスタミナ、野心に欠ける、といった偏見がまん延し、性別によるエイジズムに拍車をかける。 仕事を持つ年配の女性にとっては、このような差別は仕事の安定と収入に直結する。年齢のために就職の面接すらしてもらえない、自分より若く経験が浅い男性が登用される。定年退職のための資金的な蓄えがなくても、職場には年配の女性の居場所がないために、働き続けるのは困難だと感じる。一度退職に追い込まれると再就職することも難しい。 女性へのこうした二重差別は万国共通だが、日本ほど年齢や性別にとらわれる社会は珍しいと感じる。何歳までに結婚し、子どもを持ち、職場では何歳で課長になり、部長になり、とマニュアル化された価値観に多くの人がこだわる。 私も31歳で日本を離れるまでは「生意気な小娘」と思われ、50歳で日本に戻った時には「偉そうなおばさん」と見られ、型にはめられてきた。 「40、50ははな垂れ小僧、60、70は働き盛り」との言葉があるが、実際は日本の職場では50代は「店じまい」の時期だ。年齢や性別にかかわらず、メンバーの多様性を生かせる企業文化を醸成すべきだ。 世界的にも企業によるダイバーシティへの取り組みには、性別・年齢による二重差別への配慮は含まれていないケースがほとんどだ。今後はこの点にも目を向けてほしい。 児玉治美アジア開発銀行(ADB)副官房長。国際基督教大学修士課程修了。国際協力NGOジョイセフにて東京本部やバハマに勤務した後、2001年から国連人口基金のニューヨーク本部に勤務。08年からADBマニラ本部に勤務。19年から21年までADB駐日代表を務めた後、21年10月から現職。途上国の子どもを支援するプラン・インターナショナル・ジャパン評議員。 [日本経済新聞朝刊2022年6月20日付]