Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
話題作でも容赦なく打ち切ることから「番組愛がない」と批判されるネットフリックス。独自データを元に判断しているというが、「視聴ランキング」の選定基準も不透明で──
数々のヒット作を生み出しているネットフリックスだが、あっさりと番組の打ち切りを決めてしまう無情さでも知られる。10月だけでも複数の人気番組の打ち切りが発表され、ネット上にファンの悲鳴が飛び交った。 【動画】テスラ人型ロボット「Tesla Bot」と交流するキム・カーダシアン...「金持ち自慢」と批判の声も 例えばジェフ・ゴールドブラムがゼウス、ジャネット・マクティアがヘラを演じた現代版ギリシャ神話の『KAOS/カオス』は、配信開始からわずか1カ月ほどで、1シーズン限りの打ち切りが発表された。キャストは豪華で脚本も素晴らしく、配信開始直後から人気番組のトップ10入りを果たしていた話題作だけに、ファンにとっては大きなショックだった。 映画レビューサイトのロッテントマトで81点の高評価を得ていた『ザット’90sショー(That '90s Show)』と、ロブ・ロウと息子のジョン・オーウェン・ロウが共同制作・出演した『限界ダディ(Unstable)』も、あえなく打ち切りとなった。 あまりに無情で、番組愛が感じられないという声に対して、ネットフリックスは視聴者の反応が悪い作品を打ち切りにしているだけだと反論している。だが「視聴者の反応」をどう測定しているかは公表されておらず、「視聴ランキング」の選定基準も不透明だ。 この点について、本稿執筆の時点でネットフリックスからの回答は得られていない。しかしストリーミングビジネスに詳しい3氏からは興味深い回答が得られた。
効率性が命の競争市場
まず、アトリエ・クリエーティブ・テクノロジーズ社を率いるダン・ゴマン。メールで回答を寄せたゴマンによれば、ネットフリックスの決断は基本的に、さまざまな視点から視聴者の反応を数値化した独自のデータに基づいている。 だから(『カオス』や『限界ダディ』のように)いくら豪華キャストをそろえた大作でも、シーズン2に続く保証はない。 ゴマンは言う。「ネットフリックスは独自のデータ(多くは社外秘)を駆使して視聴者の行動を分析している。外部からは唐突に見える決定も、実は視聴者の属性や視聴時間、離脱率、視聴維持率などの分析をベースにしている」 さらにゴマンは「これらの独自データへのアクセスにより、ネットフリックスは個々の作品のパフォーマンスを実に細かく分析している。だから(長い目で見て)ヒットの可能性はあっても、特定の社内基準に達しないプロジェクトはさっさと打ち切りにしてしまう」と言う。 「コンテンツ・サブスクリプション・ビジネスでは効率が命だ。高いパフォーマンスを示すコンテンツを厳選することで、同社は魅力的な作品ラインアップを維持している。そうしないと、競争の激しい市場では生き残れない」 伸び悩むコンテンツをさっさと切り捨てるのは、それだけ失敗作が多い証拠だと考える向きもあるだろうが、そうではないとゴマンは言う。むしろ、それは同社が「高いパフォーマンスのビジネス」に専心している証拠だ。 「パフォーマンスの指標が基準に達しないコンテンツを迅速に排除することで、長期にわたって視聴者を引き付けられる可能性が少しでも高い作品にリソースを集中させることが可能になる。それがストリーミング業界の上位企業としての地位を維持する助けになる」と、ゴマンは指摘する。 企業に動画ストリーミングのインフラを提供している新興企業で、テレビ産業向けのエミー賞を受賞しているビットムービンの創業者ステファン・レデラーも、ネットフリックスの決定は全てデータに基づいているとみる。 だが彼は、長い目で見ればそれがネットフリックスの成長を損なう可能性もあると考えている。 「ネットフリックスはデータ最優先で作品の継続や打ち切りを決めているが、結果として中途半端な終わり方になったり、視聴者の目に触れることなくお蔵入りする作品が増えている」と、レデラーは本誌のメール取材に答えた。 ネットフリックスが用いている判断基準の1つに「完走率」がある。レデラーによれば、基本的に「最初のシーズンの最終回まで見てくれる視聴者が50%に届かなければ、継続の可能性は低い」。 冷酷なようだが、広告収入を増やしたい経営側の論理としては当然だろう。しかし、とレデラーは言う。 「ネットフリックスが打ち切りの決断を急ぎすぎているという議論にも一理ある。『イカゲーム』のように、あっという間に世界中でヒットする作品は例外であり、実際は時間をかけて視聴者を増やしていく作品もある」