自販機1日の売り上げは1000円未満 ダイドーが“鬼滅缶”で増益を達成できた理由
2020年は、新型コロナウイルスが流行したとして、歴史に刻まれた年になった。それとともに、エンターテインメント分野では、『鬼滅の刃』の大ヒットも必ず記憶されるのではないか。 【画像で見る】ダイドーの鬼滅缶のラインアップ 興行成績がそれまで過去最高だった『千と千尋の神隠し』(2001年公開)の約316億円という記録を、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が抜いて、歴代ナンバー1のヒット映画となった。宇宙戦艦ヤマト、機動戦士ガンダム、ドラゴンボール、美少女戦士セーラームーンといったように、世代の思い出となるアニメになったのは間違いない。 社会現象にまでなった鬼滅の刃だが、巷(ちまた)にはタイアップ商品があふれた。 「こんなにいろいろあると、タイアップした側の企業はもうかっていないんじゃないのか?」 そう疑問に感じた方も多いだろう。タイアップで、収益的に成功した企業もあれば、不発に終わった企業もあるだろう。代表的な成功事例となったのが、飲料業界中堅のダイドーグループホールディングス(以下、ダイドー)だ。
営業利益が前年同期比で6割増
鬼滅の刃とのタイアップは10月5日に開始した。そのため、21年1月第3四半期(20年8~10月)の決算には、1カ月程度しか寄与しなかった。にもかかわらず、本業でどれだけもうかったかを表す営業利益は、前年同期比累計で1.6倍だった。コロナの影響で、最大手のコカ・コーラボトラーズジャパンや、業界2位のサントリー食品インターナショナルが営業減益となるなかで、ダイドーの好調さが際立った。 自動販売機を主体として飲料を売ることで、前20年1月期にはグループとして連結で1682億円の売り上げをあげているダイドー。自販機のビジネスと、タイアップ先をヒット商品がもうけさせる構造を解説したい。
自動販売機の売り上げは1日1000円未満
日本自動販売システム機械工業会によると、19年末の自動販売機および自動サービス機の普及台数は、414万9100台(前年比98.0%)となっている。このうち、飲料は237万台で57.2%を占めている。ダイドーは、約28万台の自販機を保有している。19年度(20年1月期)において、自動販売機での売り上げ(自販機チャネル)として982億円を計上している。 一部、修理中などの理由で稼働していない保有自販機もあるが、自販機1台あたりの売上高は、約35万円。1年が365日なので、1日あたりの売上高は1000円に満たない計算になる。 ほとんどの読者は、自販機で飲み物を買った経験があるだろう。自販機で売られている缶コーヒーやペットボトル飲料の価格は100~160円程度である。1本120円とした場合、1日8本しか売れていない計算になる。24時間稼働して、3時間で1本販売できるかどうかという「小さな商いを積み上げる」ビジネスだ。この1台1台の小さな売り上げを集めながら、徹底的に効率的な運営を行ってコストを抑えることで、利益が残るようにしているのが、自販機ビジネスといえる。 ダイドーは、飲料業界内では売り上げに占める自販機チャネルの比率が高い。過去10年間で最も利益が多かった13年1月期でも、営業利益率は5.3%である。飲料メーカーとして低くはないが、決して高収益なビジネスを手掛けているとはいえない。