2015年大河ドラマの主人公は吉田松陰の妹 未知のヒロイン杉文とその周辺
2015年のNHK大河ドラマは吉田松陰の妹、杉文(すぎふみ)の生涯を描く『花燃ゆ』。2011年のNHK朝ドラ『おひさま』で主演を務めた井上真央をヒロインに、伊勢谷友介、高良健吾、東出昌大、大沢たかおなどなど、イケメン男優が「花の四人組」のごとく脇を固める布陣は「幕末版花男!?」と評判を呼びました。番組のキャッチフレーズは「幕末男子の育て方」で、チーフプロデューサーも「イケメンを意識しました」と出演者発表会見で語るほど、これはもう確信犯。T層からF1、F2、あわよくばF3層をも取り込み、大河ドラマでは3年ぶりに平均視聴率15%を超えた『官兵衛』をさらに超えるか、気になるところです。 先に吉田松陰の妹と書きましたが、ヒロインの杉文さん。歴史の表舞台に登場したことはなく、ドラマの制作が発表されたときは「だれ?」と思った人も多いのではないでしょうか。吉田松陰の妹なのに姓が違うのは、杉家の次男寅次郎、後の松陰が数え5歳で山鹿流兵学師範吉田大助の養子となったからですが、吉田松陰の生家が杉家であることをどれだけの日本人が知っていたでしょう。未知のヒロイン抜擢はネット上でも賛否相半ばしましたが、それだけにドラマを通じて、いろいろな「へえ」が見つかるかもしれません。史料も限られていそうなので、ドラマツルギー的、あるいはそれ以上の創作があるにしても、です。
久坂玄瑞は文との結婚を固辞していた?
たとえば、あの松下村塾を創設した人は吉田松陰ではないのですね。松陰が吉田家の養子となった翌年に当主大助が急死、6歳にして吉田家の家督を継いだ松陰は、藩校明倫館の兵学師範となることを宿命づけられます。その松陰を鍛え上げたのが山鹿流兵学免許皆伝の玉木文之進。実父杉百合之助の弟だから、松陰にとって叔父さん、天保13(1842)年に松下村塾を開いたのも文之進で、当然松陰も塾生でした。 ちなみに、松陰が三代目塾頭を務めたのは、松下村塾第二幕ともいえる黒船への密航を企てて後の幽閉時代。杉家の敷地で松下村塾をリスタートさせた安政2(1855)年から安政5年に再投獄されるまでの2年余です。けっして長いとはいえないその期間、高杉晋作や久坂玄瑞、伊藤博文ら幕末維新の傑物を輩出した濃密な時代でした。 そして文さんは、塾生たちをかいがいしく支えたという設定。「女幹事」と呼ばれて食事の世話から着物の繕い、道具の調達にも奮闘する、現代ならさしずめ運動部のデキる女子マネ。男子部員ならぬ塾生とのロマンスは当然予想されるわけで、15歳の文さんが嫁いだ相手は、松陰がその才を認め強く結婚をすすめた久坂玄瑞。ただし、久坂は文さんが好みのタイプでなかったらしく、一度は固辞したそうです。 松陰の再投獄に伴い閉鎖された松下村塾は、明治13(1880)年に実兄の杉民治が再開して明治25年まで存続。萩市の松陰神社境内に残る塾舎は、萩観光のエース的存在です。ちなみに萩の松陰神社は、明治23年に塾舎を改修した際、杉家の人々が建立した祠が起源。東京世田谷の松陰神社は松陰の刑死から4年後、高杉晋作たちが改葬して墓所を築いた場所で、こちらの松下村塾は萩の塾舎を模して造られたものです。