アートやデザインと密接な関係にある“工芸の今”を知る「KOGEI Art Fair Kanazawa 2024」【レポート】
生活シーンが凝縮されたホテル空間に工芸作品を展示
それでは全国から集結した40のギャラリーからピックアップして紹介したい。まず、やきものの産地・岐阜県多治見市から、多治見市文化工房ギャラリーヴォイスが参加。「やきものの現在(いま)、土から成るかたち」という展覧会形式で、萩野由梨、黒川徹、タカハシ アオイ、スウェーデン出身のエイデロブ・マチルダら40歳代以下の作家を紹介した。まさに「芸術表現としての工芸」の代表格といえる。 地元・金沢からは、縁煌(えにしら)、As Baku Bなど6つのギャラリーが出展。galleria PONTE ガレリアポンテでは、眞壁陸二の絵画、石渡結のファイバースカルプチャーなど、今の時代性とともに普遍性を感じる作品が響きあう。また、Art Shop 月映(つきばえ)では、陶、漆、金属、ガラスなどの素材と形が融合する立体アートを展示。日本で漆工芸を追求する韓国出身の隗楠(ウェイ ナン)など、国内外の美術館に作品が収蔵されている作家たちだ。 東京から、現代アートを中心としたギャラリーも多数参加した。「超絶技巧」「固体衝撃」「怜悧美学」をコンセプトとするレントゲンは、知性の技術ともいうべき「巧術」をテーマに展示。小山登美夫ギャラリーでは、陶による彫刻などを手がける90歳の伊藤慶二から90年代生まれの沖田愛有美、山下茜里まで幅広い世代を紹介。岡崎裕子、スナ・フジタら人気の陶器も。TARO NASUでは、サイモン・フジワラ、中井波花らによる純粋芸術と工芸の境界線を模索する作品を紹介。日用品の姿を借りて、さまざまな旗を重ねて分断するものを重ね合わせたライアン・ガンダーの作品が秀逸だ。KOTARO NUKAGAでは、川井雄仁、井上七海などを紹介。多和田有希と福本双紅はユニットを組み、古い写真の人物の顔を自分たちの顔に変えて陶器に転写するプロジェクトを行った。 また、老舗ギャラリーの存在感も大きい。1913年創業の春風洞画廊では、2020年に没した愛知県常滑市出身の巨匠・鯉江良二の60年代の前衛作品を紹介。版画技法を駆使し色彩と陰影で魅せる小野耕石の作品、杉田明彦の漆工芸が取り囲む。また、近現代の巨匠陶芸家を紹介する「しぶや黒田陶苑」では、今回は、お盆と道具の取り合わせをテーマに、内田鋼一、鎌田克慈、丸田宗一郎、新里明士らの作品を展示。北大路魯山人といった物故作家の作品も扱われている。 さらにギャラリーごとに趣向の異なる展示空間が続く。古美術から近現代の日本美術までを扱う秋華洞(銀座)と、戦後美術からコンテンポラリーアートまでを扱うGALLERY SCENA(ギャラリー セナ 原宿・神宮前)はShukado+SCENAの名で出展。なかでもガラス作家のマスタニメイと広垣彩子の作品は、どちらも繊細でありながら異なる表情を見せる。また、芦屋画廊kyotoでは、工芸技の持つ意味や美を、作家独自に再解釈した現代アートを紹介していた。 また、長野県松本市と東京・南青山の2拠点で活動するギャラリー石榴(せきりゅう)も目を引く。漆やテキスタイルなど、工芸に属する素材と向き合い、新しい表現を模索する現代作家たちを紹介。 ほか、暮らしを彩る作品、身に纏うアクセサリー作品などにも魅了される。北海道から福岡まで、各地の特色も感じられ、あっという間に時間が過ぎていく。 アートフェアは作品購入の楽しみを知るチャンスでもある。11月29日、コレクターの高橋隆史(株式会社ブレインパッド共同創業者/取締役会長、一般社団法人データサイエンティスト協会代表理事)による「アート購入の意味-その楽しみから悩みまで-」と題したトークを聞いた。作品はもちろん、以前なら考えられなかったアーティストなどとの交流が何よりの財産であり、仕事や生活にも変化がもたらされていると語る。 作品購入は、アーティストたちの活動支援につながる。多種多様な作品を見比べながら、自分が本当に気に入った作品を見つけることができるアートフェアは絶好の機会。来年の開催を、MUFGプロジェクトの経過なども追いながら待ちたい。 取材・文:白坂由里 <開催情報> 「KOGEI Art Fair Kanazawa 2024」 日時:2024年11月29日(金)~12月1日(日) ※会期終了 会場:ハイアット セントリック 金沢