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50代、60代もネットへ……テレビ復活のキーワードは「1社提供番組の復活」と言われる理由

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デイリー新潮

 若者のテレビ離れが叫ばれ始めて久しいが、テレビ界にとって、さらに怖しい時代が始まりつつある。テレビ好きとされてきた50代、60代までがネットへ向かっているのだ。全世代のテレビ離れ。それを食い止めるには番組の質を向上させるしかないものの、どうすればいいのか? 方法の一つとして考えられているのが、1社提供番組の復活だ。

 テレビ離れが止まらない。総務省の最新版「情報通信白書」によると、20代は平日に1日105・9分、テレビを見るが、ネットを見る時間はその約1・5倍で149・8分(平日2018年)。  50代、60代のネットの利用時間も伸びる一方だ。同じ調査によると、50代は1日にテレビを176・9分視聴し、ネットを104・3分見る。60代はテレビが248・7分、ネットが60・9分。2014年の調査では50代がテレビ180・2分、ネット68・0分、60代がテレビ256・4分、ネット32・2分だったのだから、テレビは後退の一途である。  それが各局の収入減に直結するのは言うまでもない。事実、2019年に投じられた広告費はテレビが前年比マイナス3・7%の1兆8612億円なのに対し、ネットは同プラス13・6%の1兆9984億円。テレビがネットに敗れた。これは初めてのことだ(電通「日本の広告費」より)  なぜ、見る側がネットに流れてしまうのか? ネットはテレビと違い、好きな時間に見られるせいもあるだろうが、テレビ番組が輝きを失ったためでもあるはず。テレビの視聴率至上主義が行きすぎてしまい、結果的に質の低下を招いてしまったのではないか。  質の回復のため、復権が期待されているのが、1980年代までは多かった1社提供番組だ。1つの企業、あるいは1つの企業グループが、単独でスポンサーとなる番組である。過去の1社提供番組の一部は次の通り。 ■日立「日立ドキュメンタリー すばらしい世界旅行」(日本テレビ、1966~90) ■味の素「ごちそうさま」(1971~98)、 ■トヨタ「知られざる世界」(1975~86) ■松下電器(パナソニック)「水戸黄門」(TBS、1969~2011) ■ブラザー工業「刑事犬カール」(同、1977~78) ■日清食品「ヤングOh! Oh!」(制作MBS、TBS系列、1969~82) ■旭化成「なるほど! ザ・ワールド」(フジテレビ、1981~96) ■象印「象印クイズ ヒントでピント」(テレビ朝日、1979~94) ■三菱グループ「三菱ダイヤモンド・サッカー」(テレビ東京、1968~96、中断期あり)  中には、ずっと視聴率が振るわなかった番組もある。時代に合わなくなり、終了を余儀なくされた番組も。だが、俗悪などと批判された番組は1つとしてない。ここに挙げられていない1社提供番組もそうだ。なぜかというと、1社提供番組はスポンサーがプライドを賭けて流すからである。  元民放役員が説明する。 「1社提供番組の場合、スポンサーは金も出すけど、口も出す。もちろん高い視聴率を望んでいるが、それよりも番組の質を一番に考えている。自分たちの会社のイメージを絶対に汚したくない。そもそも1社提供番組を持つのは大企業ばかりだから、目先の視聴率なんて二の次なんです」(元民放役員)  その典型例が日立の「すばらしい世界旅行」だろう。視聴率は平凡だったが、国内外で評価が極めて高かったため、同社は金を出し続けた。制作したのは伝説のドキュメンタリストである故・牛山純一氏だ。 「三菱ダイヤモンド・サッカー」も三菱グループのサッカー愛の結晶だろう。視聴率は度外視していたはず。だが、この番組のおかげで欧州サッカー事情が知れわたり、サッカー人口の裾野も広がった。三菱グループのサッカーへの愛情は、今も浦和レッドダイヤモンズに降り注がれている。 「実のところ、1社提供番組のほうが、質が担保されるのです。番組の俗悪化はスポンサーが許しませんから」(同・元民放役員)  ところが、現在の番組は大半が複数社による提供。どうして1社提供番組は減ってしまったのか。 「まず、スポンサーが口を出してくるので、局としては面倒なのです。だから減っていった。複数社がスポンサーだと、うるさくないし、どうしても番組が気に入らないというスポンサーは降りてもらえばいい。加えて、1社提供番組はスポンサー側が視聴率より質を求めますが、局側は視聴率が欲しい。収益に関わりますから。これも1社提供番組が減った理由です」(同・元民放役員)  どういうことなのかというと、まずCMには2種類ある。番組スポンサーのために番組中に流す「タイムCM」と「スポットCM」(番組と番組の合間に放送されるCMと、番組時間内に設けられた特定枠で流すCM)である。1社提供番組のスポンサーが視聴率を度外視しようが、局側としてはスポットCMで利益を上げたいので、どうしても高い視聴率が欲しいのだ。  GRP(グロス・レーティング・ポイント=延べ視聴率)という言葉がある。スポットCM1回分の視聴率を合計した数字のことだ。例えば視聴率10%の時間帯に50本のスポットCMを流せば、GRPは500となる。  スポットCMはGRP単位で売買される。スポンサーが「500GRPほしい」と求めたら、局側はその分のスポットCM枠を売る。短時間で効率良く目標GRPを達成するためには、視聴率は高いほうが良いのだ。  テレビの草創期にはタイムCMが局の売り上げの大半を占めたが、好景気だった1980年代からスポットCMの売り上げがタイムCMに迫り、今の売り上げ割合はおおよそ半分ずつ。なので、局としては1番組たりとも視聴率を下げたくない。  とはいえ、事情が変わってきた。50代、60代までテレビを見なくなると、スポットCMもそう簡単には売れない。事実、このところ、やたらとACジャパンのCMを見る。 「ACジャパンのCMは、主にスポンサーがタイムCMを自粛した際の代わりに流しますが、最近はスポットCMが埋まらずに流す場合もあるようです。テレビ離れに加え、現在は新型コロナウイルス問題がありますから」(同・元民放役員)  スポットCMのほうが景気に左右されやすいのだ。そんな背景もあって、タイムCMを重視する機運が高まりつつあり、1社提供番組を見直す声も上がっているわけだ。 「1社提供番組のスポンサーはうるさいものの、指摘は的を射ている。世間からの批判がないよう考えてくれる」(同・元民放役員)  現在も残る1社提供番組は、資生堂「おしゃれイズム」(日本テレビ、日曜午後10時)、日立「日立 世界ふしぎ発見!」(TBS、土曜午後9時)、シオノギヘルスケア「ミュージックフェア」(フジ、土曜午後6時)、出光昭和シェル「題名のない音楽会」(テレ朝、土曜前10時)など。確かに、質の点で問題視される番組は皆無だ。  また、視聴率の基準も「世帯視聴率」から「個人視聴率」になりつつある。もはやスポンサーは世帯視聴率を重んじていないし、日テレは2019年1月から個人視聴率重視を明言している。となると、あらかじめ視聴者ターゲットを絞り込める1社提供番組は、スポンサーにも局側にも効率が良いのだ。  かつて「ヤン坊マー坊天気予報」という1社提供番組があった。ヤンマーディーゼル(現ヤンマーホールディングス)がスポンサーで、1959年に日テレで始まった。農機具や漁業用エンジンなどを販売する同社が、全国のユーザーに気象情報を伝えるために始めた番組だ。農業関係者、漁業関係者と共に歩もうとする同社の姿勢が表れていた。  だが、日テレは1996年、夕方ニュースのワイド化に伴い、1社提供の見直しを提案。これをヤンマーは頑として拒み、最後は両社の協議が決裂し、番組はそっくりテレ朝に移った(2000年に終了)。♪ぼくの名前はヤン坊――という歌もそのままだ。  異例中の異例のことだった。それほどまでにヤンマーは同番組を大切にしていた。協議が決裂した後、同社の提供番組は日テレにない。  局側には面倒くさい点もあるのだろうが、スポンサーがプライドを賭けて放送する1社提供番組は信用できる。テレビによる逆襲のキーワードの1つだろう。 高堀冬彦(たかほり・ふゆひこ) ライター、エディター。1990年、スポーツニッポン新聞社入社。芸能面などを取材・執筆(放送担当)。2010年退社。週刊誌契約記者を経て、2016年、毎日新聞出版社入社。「サンデー毎日」記者、編集次長を歴任し、2019年4月に退社し独立。 週刊新潮WEB取材班編集 2020年5月3日 掲載

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